建築甲子園で特別賞 山形県立新庄神室産業高
日本建築士会連合会など主催する建築甲子園は、建築課程がある工業高校や工業高等専門学校の生徒がチームを組み、地域の暮らしにあった建築物のアイデアを図面や模型で提案する。今回は、人口減や産業の高度化などで従来とは違うコミュニティーセンター(公民館)のあり方が問われるなか、これからのセンターを作ってほしいというのがテーマだった。
このテーマのもと、山々に囲まれる地域で暮らす同校3年の小国さんと矢口颯真さん(18)は、自分の住む地域は食材が豊富でしかもおいしいことにヒントを得て、今野啓杜(けいと)さん(18)、信夫(しのぶ)翔太さん(18)も加わり、「都会にあるようなコミュニティーセンターは不要。それより最上地域のおいしい食材で山とまちを〝つなぐ〟ものをつくろう」と、料理教室の構想が浮かんだ。周囲は若者が少なく、おいしい料理をつくり教える高齢者も多い地域であることも気づいた。
構想を具体化するなか、「形にしてみなさい」という栗田耕史教諭の指導が生きた。生徒たちは挑戦してみるが、できない。すると栗田教諭は「なぜ、できないのか考えてみよう」とたたみかけ、建築に必要な考え方を学んでいった。試行錯誤を繰り返すなか、4人は、食材をキーワードに①学ぶ②手に入れる③料理する④味わう―の4つのカテゴリーを網羅した、「森の料理教室」に思い至り、人の生活領域と自然との境界部分であるとして舟形町の休耕田を活用し、地域の食材でコミュニティーをつくると考えがまとまった。
建築の仕事は、製図をはじめ構造設計、施工管理と幅広く、図面を書くにしても何度も失敗しながら理想の形に近づけていく。これは、「設計という仕事は難しく失敗の連続。何度失敗しても挑戦する精神力を社会に出る前に養ってほしい」(栗田教諭)という思いからで、4人は精度を上げていった。
出来上がった作品は、4つのカテゴリーはそれぞれ円柱形の建物に独立して入り、雪国でも開放的な空間を持てるよう全体をシェルで覆い、森に調和するようにした。作品づくりについて小国さんは「派手な色は使わず、森に溶け込むよう丸みを帯びた円柱形を4つつないだ形にした」という。
同校では、栗田教諭の指導もあり、建築甲子園でこれまでも準優勝など好成績を残してきたが、他県であるように、山形県内では高校生のアイデアが実際に建築された事例はない。特別賞受賞に山形県建築士会の伊藤彰会長(72)は「全国で認められたいい作品です。山形県の地域の暮らしを考えた作品でもある。これからもっと上を目指して頑張ってほしい」と激励する。矢口さん、今野さん、信夫さんの3人は建築を学ぶ大学などに進学するが、建築関係の仕事につく小国さんは「わからないことをわからないままにせず、一つ、一つ、着実に学んでいきたい」と抱負を述べる。