ブラジル出身の校長誕生 西武学園文理中・高 マルケス・ペドロ氏
「一番好きな言葉は子供の頃から日本語。自分で選んだ道だから」
ブラジル・サンパウロ州で青春時代を過ごした。母はイタリア系二世、父はアメリカ人と、イタリア語や英語、ポルトガル語が飛び交う環境で育ったマルケス少年は、日系人の友人ができたことで日本語に出合う。「ドラゴンボール」や「Dr.スランプ」などの漫画やファミコンに夢中になり、日本語を学び始め、サンパウロ大文学部では日本語を専攻した。日本文学では夏目漱石や志賀直哉、谷崎潤一郎などを好むといい、「文学の話はいつまででもできますよ」と笑う。
教員という職業はまさに天職だった。16歳の頃にはすでに、ブラジル人を相手に英語を教えていた。彼らはブラジル国外の人との接触が多い40~50代のビジネスマンで、マルケス少年のことを「Kid Teacher(子供の先生)」と呼んだ。「先生(という職業)のアイデンティティーというか、自分は先生に向いているんだ」と感じたという。その後、予備校や同大の機関でポルトガル語や日本語の講師を務めた。「16歳から、絶えずどこかで授業をしていた」と、教育者としての自信と誇りをのぞかせる。
平成22年に本格的に来日し、日本語教育の分野で早稲田大の博士課程を修了した同氏。自身の教育論には熱が入る。近年特に注視しているのが、AIと教育の関係についてだ。「ニューヨーク州に住んでいる私の親戚の娘は、宿題をするために(チャットGPTの使用が制限されていない)ニュージャージー州に行っている」。教育現場への新しい技術の流入に対し、「学校から見ればAIはモンスターだ」と表現する。しかし、「AIからは逃げられない」とし、これからの社会で生徒たちが必ず相対する新技術をいかに使うか、それを教えなければ「学校の意味がない」と語気を強める。
外国出身者の目に異質に映るのは、日本人のコミュニケーション。外国では他人に接する際、疑いから入るのが当たり前だとし、「日本ではまずリスペクトから入る」と驚く。五輪誘致のスピーチでおなじみとなった「おもてなし」のポーズはまさに象徴的だったという。
「本校の子供たちにはAIや機械を超える道徳を持つ人間に育ってほしい」。校長は生徒たちの未来を思い、目を細めた。(山本玲)