引退する甲斐女流五段は母の着物でタイトル挑戦、最後のきらめきに西山女流三冠の瞳が潤む
3月3日、東京・千駄ヶ谷の将棋会館でのマイナビ女子オープンの挑戦者決定戦。軽快な駒さばきを披露した甲斐女流五段は実力者の加藤桃子女流三段を破った。「まさか、挑戦できるとは思っていませんでした」と局後に甲斐女流五段は、おっとりと語った。2010年に初の女流タイトル「女王」を獲得し、これまで女流タイトル獲得は7期を誇る。2019年の清麗戦で挑戦して以降、久々のひのき舞台だ。実は引退届は今年1月に提出していた。甲斐女流五段の達観した表情の理由を、マイナビ挑戦権獲得後に知ることになった。
4月4日、神奈川県秦野市の「陣屋」でマイナビ女子オープン五番勝負第1局が行われた。同タイトルを5連覇し、「永世女王」の資格を有する西山女流三冠は対局前、「心から尊敬する甲斐さんとの番勝負は楽しみですが、引退を発表されたことで、そうした相手とはどんな将棋になるのか、漠然とした不安もあります」と胸中を語った。将棋は先手の甲斐女流五段が居飛車穴熊、後手の西山女流三冠が三間飛車の戦型だった。
いざ対局が始まれば、両対局者は普段通り、冷静に駒を進めていた。難解な形勢で迎えた終盤戦。甲斐女流五段が相手陣に打ち込んだ▲6一角に対し、西山女流三冠は4五にいた飛車を一つ引いて△4四飛(第1図)と受けた。一見、利かされのようだが、実戦は第1図から▲5二角成△9五桂▲7八金△6二金打と進行した。忙しい終盤戦で後手は玉を固めることに成功し、ペースをつかんだ西山女流三冠が第1局を制した。