ガラスの天井をボールで蹴り割る。女子サッカーWEリーグのトロフィーを巡る物語 #国際女性デー
その制作過程を伝える映像は、見たことのないようなシーンから始まった。
サッカーフィールドに現れた、岡島喜久子チェアと現役3選手。1人ずつ、ゴール前の大きなガラス板に向かってボールを蹴った。砕け散る破片、拍手、笑顔。
WEリーグ(Women Empowerment League)は、2021年に誕生した日本初の女子プロサッカーリーグだ。既存のプロスポーツ団体と大きく異なるのは、ジェンダー平等への姿勢と行動だ。加盟クラブの女性登用の数値基準を設け、現状の数値も公表。さらにジェンダー平等を阻む課題の解決に向けた「WE ACTION」に取り組み、身の回りの格差を可視化する場を定期的に開催してきた。そんなリーグの象徴となるトロフィーのコンセプトづくりは、2021年6月ごろから始まった。
ナージャ:WEリーグから「私たちの理念や女子サッカー界の想いが込められたオリジナルの優勝トロフィーをつくりたい」という相談を受け、まずトロフィーの歴史を調べてみました。もともとは、戦いで勝った相手の鎧や兜を戦利品として飾る習慣から来ているそうです。従来のトロフィーは「過去の成功」の象徴として扱われてきた。ならば、WEリーグのトロフィーは「未来の可能性」を象徴するものにしようと考えました。
素材はガラスになりました。岡島チェアも「ガラスは透明感があって色々な色があって、そこに多様性を大切にするWEリーグらしさを感じる」とおっしゃっていました。
どんなトロフィーにするかを話し合う中で、岡島チェア自身のお話も伺いました。男子と練習していた頃の話や金融業界で働いていた頃の話、今の女子サッカーを巡る課題。たくさんの壁に阻まれてきたエピソードは、まさに “glass ceiling”(ガラスの天井)でした。
女性であるがゆえに直面する見えない障壁がある状況を変えていく。そんな思いをトロフィーに込めたいと、岡島チェアに伝えました。
ここでナージャさんは、本物のガラスを壊そうと岡島チェアに提案した。
ナージャ:「トロフィーにガラスを使うのなら、本当にガラスを割るくらいでないと」と言いました。言葉にするのは簡単ですが、行動が伴わないと表層で終ってしまう。
岡島チェアや選手の皆さんがぶつかってきた壁を、思いを込めて一度本当に壊す。壊したその先に未来があるし、価値のあるなにかに生まれ変わるというメッセージも生まれてくる。本当に壊すからこそ、メッセージに力が込められ、思いの強さが世の中に伝わるんじゃないか、と。
そう提案したら、岡島チェアはこう言ってました。
「だったら、サッカーボールを蹴って割りましょう」「私も、女子サッカー界も、今までたくさんの壁に直面してきた。WEリーグがそれを壊していきたいんですよ」