【春のおでかけに】アートを見る目が変わる、東京国立近代美術館の『重要文化財の秘密』展
美術作品が面白いのは、その評価が「絶対」ではないことだ。2020年、ブラック・ライヴス・マター運動の波を受け、アメリカを含む世界各地で黒人の奴隷制度に関与した人物の銅像が撤去される出来事があったように(同じく2020年、大英博物館でも創立に寄与した人物の銅像が奴隷貿易に関与していたことを理由に展示場所を移され、美術界の大きなニュースになった)、美術作品は、その時代、その社会の思想や価値観によって、評価が一転することもある。
この『重要文化財の秘密』展は、そうした美術品の評価の特殊性を企画自体に盛り込んでいる点で、非常に意義深い。展示作品は、東京国立近代美術館が収蔵する明治以降の重要文化財51点。これらがなぜ、どのような評価の変遷を経て、重要文化財になったのかーー日本の近代美術史に隠された意外なエピソードにも迫る。
中には制作当時「問題作」と言われたものも、時代を超えていま現代の問題を意識させる作品もある。たとえば、初代宮川香山の明治14年の作《褐釉蟹貼付台付鉢》。1990年代以降、明治の輸出工芸にまつわる研究の進展が後押しし、重要文化財に指定されたそうだが、長らくこの作品は装飾過多な「悪趣味なもの」という見方が強かった。大正2年に描かれた竹内栖鳳の《絵になる最初》は、脱衣を躊躇する若い女性モデルがモチーフ。男性画家と女性モデルの視線の力学を画題にしているという点で、現代的な「問題作」と言えるだろう。
東京国立近代美術館70周年記念展『重要文化財の秘密』
@東京国立近代美術館
3月17日(金)から5月14日(日)まで。
BY MASANOBU MATSUMOTO