6メートル超の「りんごの物語」 画家・阿部澤さん、青森で制作中
阿部さんは、幼いころから絵画が好きで、レーピンやシーシキンなどロシア画家に傾倒した。1960年に都立戸山高校卒業後、旧ソ連に留学。午前中はモスクワの語学系の大学でロシア語を学び、午後からは美術館巡りを続けた。帰国後は画壇には属さず、画廊の手伝いなどをしながら、独学で油絵を描き続けてきた。
2000年秋、弘前市の岩木山のふもとで、複雑に絡み合って横に伸びるリンゴの巨樹に出会った。「すごい木だ」と心を揺さぶられた。以来、県内各地の老樹を探し歩き60枚以上描き続けた。04年ごろからは県内をはじめ、都内や大阪などで「老いたるりんごの物語」と題した個展も開いた。07年には功績が認められ、県の「青森りんご勲章」を受章した。
りんごの物語は、縦91センチ、横6・37メートル。県内の樹齢百年を超える3本の樹をモデルにしている。4月に津軽地方の雪解けの朝の様子から描き始め、現在は秋の様子を描いている。丹念な観察による精緻な筆致と大胆な構成力が魅力で、咲き誇るリンゴの花や真っ赤な実のほか、樹にこびり付く苔(こけ)なども繊細に描いている。冬は、夕暮れのかやぶき民家なども加えるという。
当初は横幅5・5メートルの予定だったが、描き足らなくなり、約90センチ伸ばした。市内でアートプロジェクトを実施している弘前エアの支援を受けており、夏と秋に公開制作も実施、市民らが作品の進捗(しんちょく)状況を見守った。
作品のサイズからみれば、通常2~3年はかかるが、阿部さんは年明けの完成を目指して毎日、深夜までキャンバスに向かっている。市内の美術作家、鶴見弥生さんもアシスタントに入り、ほぼ季節と同じ流れで描き続けられているという。
阿部さんは「いとおしい時間の流れを、リンゴの木に託して、描いている。代表作になるものなので、完成を楽しみにしてほしい」と胸を張った。【近藤卓資】