異色の神ディオニュソスとは 信者を熱狂させ、敵には残酷なブドウ酒の神
ディオニュソスにまつわる神話は数多いが、なかでも紀元1~2世紀にまとめられた『ギリシャ神話』は有名だ。それによると、ディオニュソスはギリシャの最高神ゼウスとその浮気相手であるセメレとの間に生まれた。人間の王女であったセメレがゼウスと恋に落ち、子どもを宿すと、ゼウスの妻であるヘラは激怒し、セメレをお腹の子もろとも破壊しようとした。
人間に姿を変えたヘラはセメレに近づき、ゼウスは実は神ではないのではないかという疑念をセメレの心に植え付けた。そして、彼女がゼウスに対して神である証拠を見せることを要求するように仕向けた。
ヘラの策略にはまったセメレは、ゼウスにどんな望みでも叶えると誓わせた後で、神の栄光を帯びた姿を見せるよう要求した。ゼウスは誓いを立ててしまったためにその望みを拒否することができなくなり、神の姿でセメレの前に現れた。しかし、神の栄光を見た人間がそのまま生きながらえることはできない。セメレの体は、燃えて灰となった。
ゼウスは、まだ生まれていない息子を救い出すことに成功し、その子を自分の足の中に縫い込んだ。そして臨月になったとき、ディオニュソスはゼウスの腿から生まれ出た。このような異常な生まれ方をしたのは、ギリシャ神話ではディオニュソスだけではない。知恵と戦争の女神であるアテナもまた、ゼウスの頭から生まれた。ディオニュソスはこうして、「2度生まれた神」として知られるようになった。
ゼウスは、生まれたばかりのディオニュソスを伝令神ヘルメスに託した。幼子はヘラの手から保護され、妖精たちによって育てられた。しかし、セメレの死によっても怒りが収まらなかったヘラは、ディオニュソスの気を変にさせることにした。
若きディオニュソスは、狂気にかられたままギリシャの東の大地をさまよい、アナトリア(現代のトルコ)中西部にあるフリギア王国にたどり着いた。そして、そこで出会った母なる女神キュベレによって、狂気から解き放たれる。