重厚な健築、美しい庭と共鳴し合う展覧会で、蜷川実花が新境地を開く。
〈東京都庭園美術館〉は、1933年(昭和8年)に旧朝香宮邸として建設され、戦後は首相公邸、国賓や公賓の迎賓館としても使用された本館と、3つの庭を擁する美術館。フランス人芸術家のアンリ・ラパンが主な部屋の設計を担当した建物内部は、今もほぼ当時のままの姿を残し、アール・デコの様式美を現代に伝えている。
この歴史的建造物や美しい庭と、蜷川実花の確立された世界観が溶け合うことで、新たな可能性が広がることを期待して『蜷川実花 瞬く光の庭』は企画された。作品の被写体は国内の植物園や公園、街路樹など、人によって植栽された植物。今回の展覧会タイトルでは、それらを総称して“庭”と呼んでいる。
〈東京都庭園美術館〉は蜷川自身、「学生時代から何度も通った、すごく好きな美術館」でもある。
「この場所自体が特別な体験。今回はすごくストレートな写真ばかりなので、いたずらに仕掛けを取り入れるのではなく、きちんと空間を生かした展示をしたいと考えていました。実際、館が持っているパワーと自分の作品と、どうバランスを取るかがとても難しかったのですが、同時にそれがすごく面白くもありましたね。この場所自体の空気も感じながら、作品を見てもらえたらと思っています」
今回は、蜷川が2021年から2022年の1年半ほどの間に撮りためた4万点から厳選した約80点の写真と、映像によるインスタレーションで構成。昨年、〈上野の森美術館〉で行われた『蜷川実花展―虚構と現実の間にー』は主にコロナ禍までの作品を中心に展示し、これまでのキャリアを総括するような回顧展であったのに対し、本展覧会はコロナ禍の最中に日本国内で撮影された作品のみで作り上げた。
「未来のことに目を向けると気が重くなることもあるけれど、目の前のことに意識を向けると、大事に宝箱にしまっておきたいと思うような美しい瞬間がたくさんあります。それをどうにかつかみたいと願うような気持ちも、すべて肯定しながら撮っていきました。結果、今までとはまた違う表現になった気がしています」