「ぺらぺらの彫刻」から、映画論のアンソロジーまで。『美術手帖』2月号新着ブックリスト(2)
中村宏インタビュー
1932年生まれの画家が半生の活動を語る。中村宏といえばルポルタージュ絵画の代表格としての顔が広く知られているが、50年代以降に活動を開始したその歩みは、60年安保をはじめとする政治運動への参加、モンタージュを駆使した観念絵画の制作、土方巽との交流、思想色の強かった時代の美学校での指導経験など多彩に展開されている。ルポルタージュ絵画の具体的なコンセプト設計の手法、技法へのこだわりなど、総括的な歴史研究ではこぼれがちな証言や情報も詰め込まれた一冊。(中島)
『応答せよ!絵画者 中村宏インタビュー』
中村宏=著 嶋田美子=編
白順社|3600円+税
ぺらぺらの彫刻
「ぺらぺらの彫刻」という触発的なキーワードを中心に組まれた論集。制作と執筆という専門を異にする著者たちが様々な角度から鍵語へとアプローチする様子や、豊富に掲載された図版から、彫刻のはらむ問題の幅広さを存分に感じることができる。例えば、金属的な表面について論じる手つきも、人類史を通した表面の光沢の意味を論じる松本隆と、戦後日本美術史の一断面を切り出すために論じる石崎尚では大きく異なる。また袴田京太朗の、彫刻の「空洞」に着目することで独特の史観を立ち上げる論考も興味深い。(岡)
『ぺらぺらの彫刻』
戸田裕介=編 石崎尚+伊藤誠 +鞍掛純一+田中修二+戸田裕 介+袴田京太朗+藤井匡+松本 隆+森啓輔=著
武蔵野美術大学出版局|3300円+税
映画論の冒険者たち
映画について考えること。その魅力を21人の映画論者による方法論の紹介を通して示そうとするアンソロジー。伝記的な事実にも重きが置かれた記述からは、個別・具体的な映画鑑賞経験に裏打ちされた探究的な批評と、体系性を持った理論が密接につながることが強く感じられる。読み進めるにつれ、提出された問題や論者同士の人的なつながりが立体的に見え始めるのも魅力的だ。個々人の紹介がやや短いと感じるところもあるが、読み終える頃には映画について考えるための道具立てとハンディな地図が手に入る。(岡)
映画論の冒険者たち
堀潤之+木原圭翔=編
東京大学出版会|3800円+税
(『美術手帖』2022年2月号「BOOK」より)