古今東西 かしゆか商店【三春張子人形】
今年は寅、来年は卯、次は辰。昔からの暦文化に触れる機会が減りつつある中、変わらず親しみを感じているのが十二支のモチーフです。
今回の目的は、福島県郡山市の高柴という地域で作られている十二支の人形。江戸時代の元禄期に旧三春藩領で始まった「三春張子人形」のひとつです。
張子とは、木などの型に紙を張って乾かし、型を抜いて中空にしたところへ色や柄を付けて作る技法。もとは農作業の合間に縁起物の土人形を作っていたそうですが、次第に、歌舞伎の人気演目を題材にした人形やダルマなどの張子作りが盛んになりました。
「高柴では張子人形をデコと呼びます。だからここは “デコ屋敷”」
そう語るのは、〈高柴デコ屋敷 橋本広司民芸〉の17代、橋本広司さん。15歳から始めて62年間、人形作りを続けています。縁側や土間のある古民家の工房にお邪魔すると、来年の干支でもあるウサギの張子がずらり。まんまるで軽くて色鮮やか。かわいい!
「形も柄もご先祖さんが作ってきたものをそのまま受け継いで、次の世代に伝えています。自分の考えや新しいやり方を入れることはないですね。長く繋がってきたものが変わってしまうから」
傍らにごろごろ並んでいるのも、100年以上使い続けた古い木型。その表面に油を塗り、4枚重ねて糊付けした和紙を張って乾かすことで、人形の原型を作るのです。実はこの乾燥の工程がひと苦労。天気がよければ天日干し、そうでなければ夏でもストーブをたいたり、炬燵に入れたりするそうです。
日本のウサギは目が黒いんだよ、と静かに話しながら、するすると絵柄をつけていく広司さん。毎日繰り返してきたから、何も考えなくても筆が動くのだとか。
「それでも、昨日と今日の繰り返しは違いますよ。同じ仕事を繰り返すと自分が浄化されるっていうのかな、清らかになっていく。それが大切なの。全部、仕事から教わるんだね。ご先祖さんの魂や心が仕事の中に全部入っていて、自分の背中を押してくれている。ありがてぇなあって思うんです」