<棋士の横顔・飯塚祐紀七段>将棋指導の達人は名伯楽まであと一歩、三段の弟子に背中でプロ魂を見せる
厳しい修業をくぐり抜け、1992年に四段昇段(プロ入り)を果たした飯塚七段。同い年に佐藤康光九段、1歳下に羽生善治九段、森内俊之九段ら「羽生世代」がいます。中堅棋士の年齢になった頃には「子供たちに将棋の楽しさを知ってもらいたい」という思いから、将棋普及に力を入れることになりました。
東京・練馬の将棋教室で子供たちを指導し、「歩の効率の良い使い方」などを懇切丁寧に伝えている。そんな将棋少年の中から飯塚門下となり、奨励会の三段まで昇段したのが、片山史龍三段と岩村凛太朗三段です。子供の頃から切磋琢磨している二人は、プロまであと一歩のところに迫っています。
片山三段は序盤、中盤、終盤と洗練された将棋で、岩村三段は詰将棋で培った圧倒的な終盤力が持ち味。詰将棋を解く速度では棋界最速の藤井竜王が「今は詰将棋の早解きで岩村君に勝てる自信がないです」と言うほどです。関東の棋士らから「プロ入り濃厚」と二人は高く評価されており、棋士との練習将棋に誘われています。
飯塚門下初の棋士誕生か――。1年前の三段リーグで片山三段は14勝4敗の好成績を収めましたが、最終日の敗戦が痛恨で、次点という結果でした。飯塚七段は「二人の実力は私を優に超えている。ただ、厳しい三段リーグを勝ち抜いてプロになれるかは別物」と師匠らしく、冷静に評していました。
4月に行われた今期の竜王戦4組の対局で、岩村三段は初めて記録係を務めました。大広間の奥で師匠の飯塚七段が村田顕弘六段と対局していました。記録を取りながらも、隣で行われている師匠の対局が気になっていた岩村三段。堅実な将棋を披露した飯塚七段は弟子の前で勝利しました。去り際、師匠は背中でプロ魂を伝えました。
飯塚七段は「自分はトップ相手に華麗な将棋で勝てる棋士ではありません。ただ、手堅さだったり、泥臭さだったり、努力で何とかなる部分は弟子に見せています。競争が激しい三段リーグを抜けるには、精神力、そしてわずかな運も必要です」と熱く語ります。有望な三段を擁する飯塚七段。複数の棋士を輩出する「名伯楽」まで、あと一歩です。(吉田祐也)