自殺危険高まる夏休み「悩み抱え込まないで」 絵本作家が1000回目の出前授業
■早期把握が有効
「夏休みでも、先生に相談してほしい。お父さんやお母さんでもいい。一人で抱え込まないで」
夏休みが近づく18日、東京都新宿区の区立四谷小で行われた夢ら丘さんによる1千回目の出前授業には、100人ほどの小学6年が耳を傾けた。
授業では、夢ら丘さんが絵本作家の吉沢誠さんと手掛けた絵本「カーくんと森のなかまたち」を朗読。容姿や能力に劣等感を覚え、絶望したホシガラスのカーくんが先生や仲間たちとの対話を通して励まされ、自らの価値に気づいて元気を取り戻していく物語だ。
夢ら丘さんは平成14年、脇見運転の車にはねられた。手にしびれが残り画業や家事をこなせなくなり、自殺を考えたことがある。
「お母さんが、いてくれるだけでうれしいんだよ」
当時、小学生だった娘の言葉に気づかされた。夢ら丘さんは訴えた。
「誰かに必要とされている。そう感じられると、生きる力につながる。周りに元気のない人がいたら、声をかけて、話を聞いてあげてほしい」
授業を受けた齊藤進(じん)さん(11)は「苦しいときは家族や先生に相談しようと思った。自分も友達の悩みを聞いてあげられるようになりたい」と話した。
■1人1台端末活用
厚生労働省などによると、昨年の児童生徒の自殺者数は514人と過去最多。今年も5月までに164人(暫定値)に上る。昨年の推移を月別にみると、夏休み明けの9月にかけて増加傾向が読み取れる。
厚労省などの統計(令和4年)によると、19歳までの自殺者1006人のうち、鬱病が原因・動機とされたのは79人と主要因の一つ。精神疾患となる人の半数は10代半ばまでに発症しているとする研究もあるが、そうした事情は若い世代に十分に知られてはいない。
SOSの早期把握は自殺者を減らす一助となる。文部科学省は7月10日、子供たちがそれぞれに配られたタブレット端末に毎日、体調を入力させるなどして心の不調をいち早く発見するよう学校側に要請した。永岡桂子文科相は18日の閣議後記者会見で「学校だけではなく、家庭や社会も子供の暮らしの場となる。連携して対応にあたりたい」と述べた。
夢ら丘さんに授業を依頼した四谷小は都心にあり、中学受験を目指す児童が多く、夏休み明けにかけてストレスをため込む子供もいる。こうした地域ごとの状況も踏まえ、石井正広校長は「夏休みは電話や家庭訪問などでやり取りしてきたが、端末の導入によって教員が子供や保護者とつながりやすくなった。警戒を強めていきたい」と話した。