第25回亀倉雄策賞受賞の記念展。デザイナー・岡崎智弘と三澤遥の「デザインと向き合う姿勢」に出会う
で開催中だ。今回の亀倉賞では、デザイナー・岡崎智弘と三澤遥が歴代初の同時受賞となり、岡崎智弘個展「STUDY」(6月6日~28日)と、三澤遥個展「Just
by」(7月4日~27日)が順次開催されている。
岡崎は1981年生まれのデザイナー。2003年東京造形大学デザイン学科視覚伝達専攻を卒業し、広告代理店、デザイン事務所勤務を経て、11年9月よりデザインスタジオSWIMMINGを設立し活動している。19年にはJAGDA新人賞を受賞した。今回の亀倉賞における受賞作品「デザインあneo
あのテーマ」映像は、選考委員から「コマ撮りアニメーションというありふれた手法を深く追求し、他の追随を許さない領域に達して世界にも類を見ない」と行った評価を受けている。
先月まで開催されていた個展「STUDY」では、「つくっている最中」にデザインの面白さを見出す岡崎の、「デザインと向き合うスタディの時間」が展示空間へと再現されていた。第1展示室で展開されたテレビ番組「デザインあ」でもおなじみのストップモーションアニメでは、「あ」の一文字と白い紙のみから様々なパターンの動きが生み出されていることがわかるだろう。
第2展示室では、岡崎による膨大な「スタディ」が壁一面に敷き詰められており、見る人を圧倒していた。実際に近づいてみることで、岡崎が対象をどのように観察し、どんな動きを付与しているかの過程を見ることができる。そこは、岡崎の好奇心とつくり続ける力が発露する実験室であるかのようだった。
いっぽう三澤は1982年生まれのデザイナーだ。デザインオフィスnendoを経て、日本デザインセンター原デザイン研究所に所属。2014年より三澤デザイン研究室として活動し、ものごとの奥に潜む原理を観察。そこから引き出した未知の可能性を視覚化する試みを、実験的なアプローチによって続けている。17年にはJAGDA新人賞を受賞した。亀倉賞受賞作品「玉造幼稚園
サイン計画」は、円筒形というミニマルな立体造形と独自の配色が特徴のデザイン設計だ。小さな子供でも理解できるサインであるとともに、その想像力を引き出す造形である点が評価された。
現在開催されているのは、その三澤の個展「Just by | だけ しか たった」だ。本展では「だけ しか
たった」と表されるように、ささいな行為を加えただけでものの見方が変化するといった、完成された作品の手前にある「思考の立体エスキース」を会場内に点在させている。
会場に足を踏み入れた人は、この角材のみが壁や床に巡らされているように見える空間に、一瞬戸惑うことだろう。この4段に設置されている垂木が、展示什器となっているのだ。垂木は、展示空間においてはよく裏方で使用される40×30ミリメートルの建築資材。この素材を壁に「留めただけ」で成立している会場そのものから「Just
by」を体現しているのだ。
展覧会は、通常同じ高さで作品が展示されることも多いが、しゃがんだり見上げたりしながら、会場の様々なポイントに三澤の思考のかけらを見つけることができるのも面白い試みである。
会場に点在する立体エスキースの数々に時系列などは存在しないが、来場者はこれらを「観察」していくうちに、周辺にあるもののかたちや思考がリンクしていることに気がつくだろう。キャプションもあえてつけられていないため、非言語で示されたこれらの造形の面白さや思考の流れを追体験することで、様々な発見をすることができる。
三澤は今回の個展に際し「今年でギャラリー活動を終了してしまうクリエイションギャラリーG8。思い出深いこの場所の、壁や床の隅々までを使っておきたかった」という純粋な気持ちも語ってくれた。亀倉賞受賞の記念すべき個展と同時に、同ギャラリーのラストスパートも静かに見守っていきたい。