吉村昭さん書斎を整備公開へ 東京都三鷹市
吉村さんは乾いた文体で歴史のなかの人間の姿を描き、「戦艦武蔵」や「三陸海岸大津波」「ポーツマスの旗」などの作品を世に送った。没後15年以上がたった今も愛読者は多い。
妻の津村節子さん(93)と三鷹市井の頭の井の頭恩賜公園近くに居住していた吉村さんは、昭和53年に自宅の離れに書斎を建てた。取材旅行で家を空けることも多かったが、心を落ち着けられる書斎は執筆に欠かせない場所だったという。
市は平成29年、書斎を井の頭公園内に移設し、公開する計画を決めたが、自然環境への影響を懸念する声があったことから翌年に断念していた。その後も整備を模索していた市は、吉村さん宅から約1キロ離れた駐輪場跡地に移転することを決定。書斎は約35平方メートルの木造平屋で、同じ敷地には初版書籍や直筆原稿などを収めた展示棟も設置する予定だ。
荒川区の吉村昭記念文学館にも、吉村さんの蔵書を並べて書斎を再現したコーナーがあるが、市の担当者は「こちらは実際に吉村さんが使った書斎」と強調、「可能な限り当時の様子を再現したい」としている。
令和4年度後半には着工し、5年11月の開館を見込む。市は5月29日まで150万円を目標にクラウドファンディングを実施しており、4月21日時点で約74万円が集まっている。芸術文化課の担当者は「作り付けの机や天井の高い部屋に並ぶ書棚などを見て、吉村さんの作家活動の一端に触れていただければ」と話している。(内田優作)