マグリット《光の帝国》も。アメリカ音楽業界の重鎮、モー・オースティンのコレクションが競売へ
ニール・ヤングやプリンス、マドンナ、レッド・ホット・チリ・ペッパーズ、グリーン・デイなどのミュージシャンやバンドのキャリア形成を手助けしたオースティン。50年以上にわたってヴィジュアルアートにも傾倒し、世代やジャンルを超えた作品を収集し続けた。
そのコレクションには、ルネ・マグリット、パブロ・ピカソなど近代美術の巨匠から、ウィレム・デ・クーニング、ジョアン・ミッチェル、サイ・トゥオンブリーなど抽象表現主義の先駆者、そしてジャン=ミシェル・バスキア、マーク・グロッチャン、村上隆、セシリー・ブラウンまで、幅広いジャンルのアーティストの作品が含まれている。
セールのハイライトはルネ・マグリットによる1951年の作品《光の帝国》(1951)であり、予想落札価格は3500万ドル~4500万ドル(約47億円~60億円)。マグリットは、1948年より昼と夜の両方を同時に表現した「L'Empire
des lumières(光の帝国)」シリーズを制作し始め、その油彩画は現在17点が残されている。
同シリーズの作品は現在、ペギー・グッゲンハイム・コレクション(ヴェネチア)やニューヨーク近代美術館(ニューヨーク)、ベルギー王立美術館(ブリュッセル)などに収蔵。個人コレクションに収蔵されていた同シリーズのひとつは、昨年3月にサザビーズ・ロンドンにて5940万ポンド(当時のレートで約93億円)で落札され、マグリットのオークションにおける過去最高額を記録している。
今回の作品は、積乱雲の広がる穏やかな青空に、縦長の非常に高い木をシルエットで配した唯一のもの。オースティンが1979年に購入して以来、一般公開されていないという。
同セールには、マグリットによるもうひとつの作品も出品される。エドガー・アレン・ポーの短編小説に因んだ《アルンハイムの領地》(1949)だ。マグリットが1930年代半ばに制作し始めたこの主題の初期の作品では、鷲をかたどった遠くの山を背景に、手前に鷲の卵が描かれたものが多いが、今回の作品は卵が取り除かれ、カーテン付きの割れ窓に置き換えられているユニークなもの。予想落札価格は1500万ドル~2500万ドル(約20億円~33億円)。
そのほか、サイ・トゥオンブリーによる1962年の《Untitled》(予想落札価格1400万ドル~1800万ドル)や、ジョアン・ミッチェルの《Untitled》(同700万ドル~1000万ドル)、ウィレム・デ・クーニングの《Two
Figures》(同500万ドル~700万ドル)などの抽象表現主義の作品も出品。また、バスキアの《Moon
View》(1984)とピカソの風景画《Paysage》(1965)もセールに登場し、いずれも700万ドル~1000万ドル(約9億円~13億円)を見積もっている。
サザビーズのCEOチャールズ・F・スチュワートは声明文で、今回のセールについて次のようにコメントしている。「(オースティンの)天才的な才能の発掘と育成は、特定のカテゴリーやスタイルにとらわれず、自分の直感を信じ、定評あるアーティストの優れた作品を導き、つねに新しい刺激的な声を受け入れる、境界線の外に生きるコレクターとしての天性の目にも匹敵する」。