『なんて素敵にジャパネスク』『海がきこえる』…没後15年のいま、NHKや新聞が「氷室冴子」に注目するワケ
――今、氷室作品を読む意義、価値はどんなところにあるのでしょうか。
嵯峨 生前には「少女小説」「女子中高生向け」というイメージが先行しており、代表作『なんて素敵にジャパネスク』がシリーズ累計800万部以上売れたといっても、それでも読んでいた層が限られていました。そのため十分な評価がされてこなかったのですが、今大人が読んでも楽しめる、時代を超えて響く普遍的な魅力があるんですね。
また、近年注目が高い『いっぱしの女』などのエッセイは、フェミニズム文脈でも読み直すことができる。今よりもずっと女性が声をあげにくかった90年代に、女性が社会の中で生きることで感じる憤りや悲しみ、傷付いてきた経験を書いていた。そこも見直されています。
その時代その時代で人気のあった作家はいますが、氷室冴子ほど読者が「生きる力になった」「背中を押してもらえた」と長年語り続けている作家はそうそういないと思います。女性たちに勇気や希望を与え、心の糧になってきた。没後直後よりも没後15年の今、より再評価の気運が高まっているのは、かつての読者の変わらぬ熱い想いがあったからではないかなと。
――氷室さんが後続の作家・作品に与えた影響というと?
嵯峨 直接影響を受けて憧れていたという意味では、『52ヘルツのクジラたち』で本屋大賞を受賞された町田そのこさんや、やはり本屋大賞に3年連続ノミネートされた青山美智子さんのように、10代のときに氷室作品を読んで作家を志した方がいらっしゃいます。
ただ、直接的に影響がなくても、氷室さんの活躍が70年代後半から集英社コバルト文庫を活気づかせ、女性向けエンタテインメントを開拓していったなかでたくさんの作家がデビューしていきましたから、間接的な影響も含めれば非常に大きなものがあります。