《追悼・松本零士》「SF」と「昭和」が作品に同居する偉大な漫画家の唯一無二の世界観
『宇宙戦艦ヤマト』『銀河鉄道999』『宇宙海賊キャプテンハーロック』など宇宙を舞台とした作品と、昭和の極貧生活を描いた『男おいどん』。いずれも松本零士氏の代表作だが、一見バラバラに見えて、その世界観は見事につながっている。あまたのタイトルを描きながら、その全てが「松本零士」という作家性に収斂(しゅうれん)する作品群を考察し、それらを生んだ稀代の漫画家の半生を振り返る。
漫画家、アニメーション制作者の松本零士氏が2月13日、急性心不全のため亡くなった。85歳だった。松本氏はその作品によって「生きる力」を伝えてくれた、偉大な表現者だった。
よく知られていることだが、松本氏の作品世界には二つの顔がある。大宇宙を舞台にした、幻想的な美しさを持つSF作品と、部屋にためこんだ下着からキノコが生えてくる「四畳半」の世界。
極大の宇宙と極小の四畳半では、まるで対極。しかしその世界で活躍するキャラクターに目を向けると、そこにもまた二つの「顔」があることに気づかされる。「未完成の若者を見守る大人」と「憧れの大人を見上げる少年」の二つの顔だ。
松本氏は1938年に、サムライの血を引く家の、7人きょうだいの真ん中として生まれた。母は元女学校教師で、父は陸軍士官学校を卒業し、少佐にまで昇進した戦闘機のパイロットだった。
『宇宙戦艦ヤマト』(1974)に登場する沖田十三艦長は、この松本氏の父がモデルになっているという。『宇宙戦艦ヤマト』は、人類の壮大な旅を描く作品。惑星ガミラスの攻撃を受け、滅亡の危機にひんした人類が、宇宙のはるかかなたイスカンダルまで、放射能除去装置を受け取りに行く希望の航海の物語だ。沖田艦長は作品のメインキャラクターの一人で、鉄の意志を持つ優れた指揮官であるのと同時に、戦場で相まみえる敵にも敬意を払う優しい人でもあった。
このキャラクターは、外見も親戚の人々が「親父さんそっくりだ」と叫ぶほど似ていたそうだが、「人は生きるために生まれてきたのであって、死ぬために生まれるのではない」という『宇宙戦艦ヤマト』のメインテーマそのものも、松本氏が父からよく聞かされた言葉だったという。