古今東西 かしゆか商店【江戸結桶】
丸い桶を枠に見立てて両側をガラスにした金魚鉢。昔、映画で見て、「なんて可愛いんだろう!」と、すぐに調べたのを覚えています。
「結桶の金魚鉢は、江戸時代の浮世絵にも描かれています。桶は実用のものですが、それを金魚鉢に見立てるところが、江戸っ子ならではの洒落とも言えます」
そう語る結桶師の川又栄風さんは、江戸初期から木材の町として栄えた深川で130年続く〈桶栄〉の4代目。東京で唯一残る“江戸結桶”の作り手です。結桶とは、短冊状の板を丸形や小判形に繋ぎ、細いタガで結う(固定する)桶。板を丸く曲げるのではなく、カーブした鉈で丸太から“湾曲した板”を取り、側面を繋いで丸い形を作るのが特徴です。鎌倉時代に生まれた技法で、強度や密閉性が高く、大量の水や酒を運搬・保存するのにぴったり。室町時代には全国に広まりました。
木のいい匂いが広がる工房の棚には、おひつやワインクーラー、湯桶がずらり。丸太のカットから組み立てまで、70以上の工程をすべて手作業で行っているそうです。
「材は樹齢300年ほどの木曽産天然サワラやヒノキです。特徴は年輪が緻密で軽く、水に強いこと。原木で仕入れ、雨や水を当てながら天日干しし、1~5年ほどかけて木を落ち着かせてから割り・削りの工程にかかります」
目を見張るのは、壁一面を埋め尽くす道具の数々です。鉋だけでも数十種類。工程が変わるたびに道具を替え、シャッ、シャッと乾いた音を鳴らして削ります。
「仕事は父から学びました。伝統的な道具を使いこなせないのは自分の技術不足だと思い続けていましたが、体格や筋力は人それぞれ。刃物の研ぎ方や体の使い方を微調整する必要があると気づきました」