国の重要文化財にも指定「芦屋釜」 400年ぶりに復活させた鋳物師の思い【福岡発】
「自身も復興に携わりたい」と復元に尽力した芦屋鋳物師・樋口陽介さんを取材した。
茶道の美しい作法の中で、湯を沸かすときに使われるのが「湯釜」。茶道の世界で幻の名品とされている湯釜が芦屋釜なのだ。
芦屋鋳物師・樋口陽介さん:
茶の湯釜の元祖と言ってもいいのが芦屋釜です
古くから貿易船が寄港する港町として発展してきた芦屋町。芦屋釜は大陸から茶の湯の文化が伝来した14世紀の中頃に生まれた。「真形(しんなり)」と呼ばれる端正な形と美しい文様が特徴で当時の貴族らに愛されてきたのだが、時代の変化の中で江戸時代にその技術は途絶えてしまった。
国の文化財に指定されている茶の湯釜9つのうち8つが芦屋釜。町は30年ほど前にその復興に乗り出した。
芦屋鋳物師・樋口陽介さん:
芦屋町の方の思いも詰まってるんですね。それが自分の中の力にはなってますね。やはりこの町でそういう、もう一度芦屋釜を作る職人として生きてみたい
400年の時を経て現代によみがえった芦屋釜。湯を沸かすためのこの端正な釜を作ることができるのが「芦屋鋳物師」と呼ばれる職人だ。
江戸時代に一度途絶えてしまった技術を取り戻そうと、芦屋町は約30年前に街の一角に工房を備えた研究施設「芦屋釜の里」を立ち上げた。
この工房で芦屋釜復興のための技術を磨いているのが福岡市出身の芦屋鋳物師・樋口陽介さん(42)。美術を学んでいた学生時代に芦屋釜に出会い、自身も復興に携わりたいと18年前にこの道に入った。
芦屋鋳物師として独立した職人は樋口さんを含めてまだ2人しかいない。
芦屋鋳物師・樋口陽介さん:
一生、修行と言いますか、終わりのない学びのなかにいると思いますけどね
技術の高さは手にするとわかる。
テレビ西日本・楢崎春奈記者:
びっくりするくらい薄くて、半分ではありますけど軽いですね
芦屋釜の厚みはわずか2mmと驚くほど薄く、鉄でありながら軽くて使い勝手がいいのが特徴だ。
この日の作業は型を回転させながら均一な形の鋳型を作る「型挽き」。外型と中子という2種類の鋳型を作り、その中に鉄を流し込むことで薄い釜が生まれる。
鋳型に使われている砂は室町時代の工房の遺跡から発掘されたもの。この地を流れる遠賀川で鋳型に適した良質な砂が採取されたことが、芦屋で鋳物が発展した理由のひとつと考えられている。
有力な文献なども残っていない中、この砂は当時の職人とつながることができる唯一の存在なのだ。
芦屋鋳物師・樋口陽介さん:
昔の人とつながるって責任感とですね。それをつないでいくっていうことも自分の中で考えないといけませんので。まぁ無責任なことはできませんよね
当時の職人と砂を通してつながり作っていく鋳型。形ができたら緻密な文様を一つ一つ手で施していく。文様によって使い分けるという何本ものヘラもお手製のものだ。
こうして実に2週間かけて作った鋳型に流し込むのが、砂鉄から精錬する日本古来の鉄「和銑(わずく)」。錆びにくく、使うほどに味が出ると昔から芦屋釜に使われている。
しかし、釜の厚みがわずか2mmというその薄さゆえに、鉄を流し込んだあと割れずに取り出せるのは3割程度と言われている。