アートはビジネス界の救世主となり得るか? 藝大x東大の前衛集団が表現する答え
そもそもアートは、文化的な活動であるとして人類の歴史の中で生産性とは切り離されてきた。一方で、1970年ごろからビジネスにおけるアートの利用が研究され始めている。近年ではアート思考やSTEAM教育などの理論から、社会全体でもアートによる生産性向上とその経済効果が注目されるようになった。
果たして、アートは本当にビジネスの救世主となり得るのか? 起業家としてのビジョンを次々と作品に表現していく、新しいスタイルのアート活動を探っていく。
■旗振り役は、日本最大級の仮想通貨メディア設立経験も持つ東京藝大院生
旗振り役となった現役の藝大生とは、下山明彦。東京大学卒業後、東京藝術大学に学びの場を移し、同校の修士課程を今春修了する現役の大学院生だ。下山は東京大学在学中に起業し、一社を売却ののち、現在はSenjin Holdingsの代表取締役を務めている。
東京藝術大学ではアーティスト集団「ALT」を主宰し、アートとビジネスを結びつけるワークショップを開催してその成果を論文として発表するなど、「アートとビジネスとアカデミア」三領域での活動を追究している。2021年には、マインドフルネスアプリを開発する企業をパートナーに、「いまここで、よく生きる。」展を開催。起業家としてのビジョンを基本に、アート制作や自ら率いる企業の社員との対話を通して、新しいスタイルのアートを模索してきた。
有り余るエネルギーを糧に活動する「動」の一面とは別に、インドで瞑想修行を体験した過去も持つ下山。ついには、死生観に対する追求を書き綴った「若者のための死への教科書」を出版するなど、執筆活動を通して思想家の顔も見せる。
■アート×ビジネス×アカデミアが融合した理由
そんな下山が主宰する「ALT」とは、藝大&東大の有志達で結成したアーティスト集団。下山の大学院の修了展として、これまで行った企業向けワークショップの成果を発表したのが、「ALT +>>」だ。
「脳ではなく、魂の目指す場所はどこか?」「なぜ人々は、コーラを飲むときに合掌しないのか?」など、アーティストが提示する思いもよらない「問い」に対して経営者とともに向き合いながら作品を創っていく。またそれを「参加的対話型鑑賞法」と呼ばれる理論のもとで社内に共有し、経営者の考えそのものが社内に浸透することを目指した。
今回、活動の成果展ともいうべき「ALT+>>」を開催するに当たり、下山は、熱い思いを語る。
「現代の極端に加速主義的な社会では、マーケットも消費者もめまぐるしく変化していくため、経営の持つ『顧客の問題を解決して対価をもらう』という難易度が確実に上がってきています。そこで『社会が変化しても変わらない、企業の普遍的な存在意義=パーパスを作品によって深掘りしよう』という考えに行き着いたのです」
■ユニークな体験から、柔軟な発想の連鎖が生まれる
手掛けたワークショップの一例に、「起業家とのワークショップ」が挙げられる。その内容とは、最初に四方全てが真っ白な空間をペンキやマーカーで彩る。次に、起業家の一筆描きから始まり、「ALT」のメンバー全員が参加して壁画を作成する。最後に、完成した作品を前に起業家は1人で部屋に残り、1本の蝋燭の灯りだけで自分の思想と向き合い、内省の時間を過ごす。といったように、独特な世界観が表現されている。
ALTによるワークショップの特徴は、アートを生産性向上のみに役立てるのではなく、経営者の根本にある価値観を浮き彫りにして、パーパス経営を支援することにある。