外国人シェフの「豊洲市場での買い付け」に同行してみたら─東京の五つ星ホテルで働く彼らの“喜び”
私たちがフォーシーズンズホテル丸の内東京内のフレンチレストラン「セザン」でまさに世界レベルの夕食をとり、「おやすみ」と言って別れてから、まだ7時間も経っていない。
だが、このレストランの料理長ダニエル・カルバートは、秋の日差しが降り注ぐ豊洲市場で、すでに動き出していた。少し疲れた目をしてはいたが。
豊洲は、有名で歴史もあった築地市場の魅力をすべてそのまま引き継いだ、というわけではないかもしれない。それでも、豊洲もまた唯一無二の食材のワンダーランドとして、シェフたちに愛されている。
彼らは、お金を払えば手に入りうる最高級の魚介類、そしてインスピレーションを求めて、豊洲を訪れるのだ。
カルバートが豊洲に行くのも、まさにその理由からだ。彼は、五つ星ホテルの看板となるフレンチレストランを率いるため、2021年に香港から東京にやってきた。
英国出身のカルバートは、仕事において厳しい基準を課すことで知られる。私たちが7時に待ち合わせしたのも、スタートとしては遅いという(競りが始まるのは早朝5時だ)。だがそれでも、彼と副料理長のアシュリー・ケイリーは、市場に並んだ食材に興奮していた。
どこまでも続く寒い通路に、店舗がひしめいている。立派なルビーレッドのマグロ、朱色のタコ、猛毒を持ったフグ、鮮やかなオレンジ色のウニが並ぶトレイに、銀色のウナギが泳ぐバケツ。ウナギは明らかに、カルバートの得意分野ではないようだ。彼は少し身じろぎした。
ちょうど毛ガニのシーズンだった。なかには、カルバートが驚くほど大きいものもある。しかし、前の週に築地を訪れたとき、彼は「まだ早い」と思ったという。
この発言は、彼が最高級の食材を手に入れることに、どれほど命をかけているかを示している。彼は自分──そして自分の客たち──が何を求めているのか、正確に理解しているのだ。セザンのメインメニューにズワイガニを据えることもできたが、結局、上海ガニにしたと彼は語る。
見栄えのするそのカニ料理は、一人前としてカニの半分を薫り高い黄色ワイン(フランスのジュラ地方で作られるヴァン・ジョーヌ)につけ込み、さらにそれをコシヒカリと混ぜ合わせ、甲羅に盛り付けたものだ。
「当店のお客様には、他では食べられないものを食べていただきたいのです」とカルバートは言う。
「ズワイガニはどこでも食べられます。日本の食材に関しては、お客様のほうが詳しいことが多いんです。それに私は長いこと香港にいましたから、上海ガニを使うのは理に適っています」