【大人が見るべきアート展】大山エンリコイサムの『Epiphany』
1970年代から80年代にNYで隆盛した「エアロゾル・ライティング」。ストリートアートの代表的な表現、いわゆる “グラフィティ”だ。現代美術家・大山エンリコイサムは、当時メディアが勝手に付けた “グラフィティ(落書き)”という呼称ではなく、エアロゾル塗料をスプレーで吹き付けるその技法や行為である「エアロゾル・ライティング」の名を意識的に使い、自身の表現を言い表してきた。
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『大山エンリコイサム|夜行雲』の展示風景(2020年、神奈川県民ホール)
大山の作品に見られる、立体的な線の構造体――この「クイックターン・ストラクチャー」と名付けられたモチーフは「エアロゾル・ライティング」を独自に解釈したものだ。もともとNYのライターたちは、文字をベースにしたグラフィックを地下鉄やストリートに描いてきたが、大山は、そこから文字の意味を剥ぎ取り、抽象的な線の運動体として、このモチーフをつくり出したのだという。
「運動体」という言葉は、じつにしっくりくる。スピーディで無限に伸びていくような視覚的な特徴に限らず、大山の「クイックターン・ストラクチャー」は、紙やキャンバス、壁面の上に、あるときはショップの空間、アウディの自動車、横綱の化粧まわしに、とメディアや領域を横断しながら展開されてきた。コム デ ギャルソンの2012年春夏コレクションの衣服を彩ったこともある。モチーフ自体も、多様なかたちで作品に姿を見せる。単体で描かれることもあれば、組み合わせたり、重ねたり、もとの図像をけしごむで“消す”ように、イメージの上に白い「クイックターン・ストラクチャー」が載せられたりしたことがあった。
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『大山エンリコイサム|Black』の展示風景(2018年、Takuro Someya Contemporary Art)