落合陽一が占う、 2033年のアートとAIがもたらす影響
生成AIによってアートは大きく変貌してしまうのだろうか? 「デジタルネイチャー」という言葉をいち早く定義してきたメディアアーティスト落合陽一が作品と思想からアートの未来を予想。
デジタルがもたらす未来を探究しつつ、これまで数多くの作品を発表してきたメディアアーティストの落合陽一。芸術表現としてのメディアアートは60年程度とまだ歴史が浅い分野だが、コンピューターなど電子メディアとの親和性の高さも特徴のひとつ。実際に落合さんの作品を見わたしても、プラズマや音響浮揚、ディスプレイから古典写真や木彫りまでさまざまな媒体が使われている。
「高コントラストな表現ができるLEDディスプレイは、油絵や水彩画を超える自発光素材。空気を光らせてできるプラズマなら、空気のみを素材に三次元の表現ができる。それらをデジタル時代に生まれた電子的素材として捉えています」と言う。
作品の主題となるのが、「物化する計算機自然(デジタルネイチャー)と対峙し質量の憧憬と涅槃を本願とする」という考えだ。物化とは中国・莊子の言葉で、万物は変化するという意味をもつ。胡蝶のモチーフもここからだ。
「計算機と自然が混ざって新しい自然になったとき、人間中心の世界から計算中心の世界に移行する。『自然』が変わると、人間性も芸術も科学技術も変わってしまう、というのが私の探究の根本です」と落合さん。
近年の目覚ましいテクノロジーの発達、特に生成AIの進化は落合さんが考える世界への移行を早めているようにも見える。アーティストは、この新技術とどう向き合えばいいのだろうか。
「もともと独自性のある人は、生成AIを使っても新しい表現を生む。でも、ネット上のシーズから素材を引っ張り出して創作する人は、どこかで見たようなものを安くつくることしかできない」
そして生成AIは落合さんがいう「新しい自然」を既に生み出しているとも指摘する。波の動画を例に、こう説明してくれた。
「生成AIは美しい波の映像をつくることができます。それは限りなくリアリスティックに見えるけれど、現実の自然ではその波は立たない。それでもきれいだと思うのは、我々が主観的な世界を生きているから。物理的な写実性を抜いても波はこれでいい、と脳が判断しているわけです。この主観的な現実は印象画の誕生に匹敵する新しい表現でしょう。主観的な計算機自然を見ているのです」
他にも作品制作時の人的パワー効率化、制作時間の短縮など、AIがアートにおよぼす影響は大きいという。
「描画技術の進化は、アートにとっての写真に匹敵する進歩でもあります。生成AIについていろいろといわれているけれど、オリジナリティがある芸術は、AIによって洗練される。10年後、それは当然のこととして理解されていると思います」