聞きたい。 落語家、桂宮治さん『噺家 人嫌い』(扶桑社・1760円) 「令和の爆笑王」の泣ける人生
保育園の行き渋り以来、いわゆる引きこもりで、小学校高学年のときにカウンセリングを受けたほど。中学時代、両親の離婚をきっかけに「しっかりしなきゃ」と通学するようになった。
「人に会うと、相手が何を考えているか分からなくて…。『嫌われたくない』『あんなこと言わなければよかった』とグジグジ、クヨクヨしていました。それなら人に会わなければいいと」
幼少期をこう振り返るが、この気持ちは笑点メンバーになった後も続いていて、今でも「すぐ家に帰りたくなる」という。
アルバイトと遊びにハマり、再び不登校になった高校時代。鳴かず飛ばずだった俳優時代を経て、化粧品を実演販売する「ワゴンDJ」としてトップセールスマンになるも、結婚披露宴でまさかの退職宣言。「人生一度きりなんだから、やりたいことをやってみなよ」という妻の言葉に背中を押され、ユーチューブで出合った落語の道を歩み始めた。
桂伸治への弟子入りシーンと初稽古のエピソードは思わず吹き出す面白さ。真打ちになる手前の二ツ目落語家らによるユニット「成金」での思い出や、笑点メンバー抜擢(ばってき)の舞台裏は落語ファンでなくとも興味深いはず。人間の業を包み込む爆笑落語の芸風ができるまでもよく分かる。
人に救われ、落語に救われ、「七転び八起き」「人間万事塞翁が馬」を地で生きてきた。「自分の人生を話した記事に反響があって。みんなに笑って元気になってもらえるなら、一生に一度くらい本を出してみようかと」。笑って泣ける人生から、明日を生きる勇気をもらえる。(池田証志)
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かつら・みやじ 落語家。昭和51年、東京都生まれ。平成20年、落語界へ。令和3年に真打ち昇進。4年から「笑点」に出演。