マラリア保有の蚊を撲滅へ 愛媛大が挑む「mRNAワクチン」開発
マラリアはハマダラカが媒介するマラリア原虫(寄生虫)が病原体となって引き起こされる病気。ハマダラカに吸血されることで血液中の赤血球にマラリア原虫が入り発症する。高熱や貧血を引き起こし、脳障害から死に至ることもある。WHOによると、2021年で患者数2億5000万人、死者62万人で、その76%が5歳以下の乳幼児。治療薬や殺虫剤への耐性があり、撲滅が難しい病気という。世界でマラリアは5種類あるといい、三日熱マラリアは東南アジアや南アメリカで流行している。
マラリアワクチンは1種類が実用化され、予防接種が行われているが、効果は30%にとどまる。愛媛大とタイのマヒドン大学との共同研究で、より有効な新たなワクチンの開発を目指している。
力を入れているのはmRNAを使う「伝搬阻止ワクチン」。抗原タンパク質を合成し、人工吸血法によってハマダラカの中に送り込み、マラリア原虫の発育を阻止できるか判定する。これにより効果が認められれば、マラリア保有化を撲滅する道が開けるという。
mRNAワクチンは新型コロナウイルスへの対抗策として、ファイザー社やモデルナ社(ともに米国)が開発し、一気に知られるようになった。愛媛大などはそれ以前から「Pvs25」という三日熱マラリア抗原でmRNAワクチンの開発研究に取り組み、今年3月にマウスで有効性を確認している。
今回はより効果が高いと見込まれる愛媛大が見いだした「Pvs230」抗原に着目し、ワクチンを合成し効果を測定する。抗原はタンパク質で、愛媛大は「コムギ無細胞法」というタンパク質構成技術を保有しており、研究室には同大発のベンチャー企業による「全自動タンパク質合成装置」を備えている。コムギ胚芽抽出液を基質液とし、試験管内でタンパク質を作り上げることができる。
愛媛大ではワクチンのデザインを行い、6種類をつくる計画。マヒドン大で効果の測定実験などを行うという。愛媛大では、一連の非臨床試験で効果が確認できれば、世界で初めての三日熱マラリア伝搬阻止ワクチンの開発に進むことができ、撲滅に向けた切り札になる可能性があるとしている。グローバルヘルス技術振興基金による愛媛大のマラリア研究に対する助成は2013年からで、今回は12回目となる。
同センターの高島英造准教授は「Pvs230は大きなタンパク質なので、ワクチンのデザインでは切って使う。機能的に重要な部分、抗体によって認識される部分がまだよくわかっていない。それがわれわれの担当だ」と話す。「チャレンジングなプロジェクトだが、臨床まで5年を考えている。うまくいけば8年ぐらいで実用化できるのではないか」とこれまでの研究を踏まえ、手ごたえを感じているようすだった。
沢崎達也センター長は「得られた技術は熱帯熱マラリアにも応用可能と考えている」と述べ、アフリカで流行し、致死率の高い熱帯熱マラリアでもワクチンを開発できるとの見通しを示した。(村上栄一)