【李禹煥(リ・ウファン)インタビュー】国立新美術館で回顧展が開催中!
「政治価値、教育価値、愛情価値、科学的真理、芸術価値、……さまざまの価値の複合と葛藤が、社会の抗争と私たちの内面の葛藤を形成するが、人が学者として生き、あるいは芸術家として生きるということは政治家や司法官とは異った価値軸を内に持っていることを意味する」(高橋和巳『わが解体』河出書房新社、1971年)
偶然なのだが、この夏、東京の別々の国立美術館で、戦後に数奇な運命をたどり、現在は世界を舞台に活躍している1930年代生まれのふたりのアーティストの展覧会が同時開催された。ひとりは、旧東ドイツ出身で現在はケルンを拠点に活動するゲルハルト・リヒター(1932年生まれ)。もうひとりは、韓国出身で日本の鎌倉にアトリエを持つ李禹煥(1936年生まれ)である。
リヒターは旧東ドイツで美術教育を受けたが西側の自由な表現に憧れ、ベルリンの壁が東西を分断する半年前に西側に移った。一方、やはり韓国で美術を学んでいた李は軽い所用で日本を訪れたがそのままそこに住み、大学で学び、作家として活動することになった。李自身が語っていることだが、李の友人でもあったドイツ人アーティストのジグマー・ポルケ(1941~2010年)は李の絵画の特質を見抜き、こう言ったという。「ゲルハルト・リヒターは絵画のあらゆる可能性を試みた。しかし彼がやってないことが一つある。それをお前がやっている」
李禹煥(リ・ウファン)
1936年、韓国慶尚南道生まれ。戦後日本美術の最も重要な動向の一つである「もの派」の中心的作家。2011年グッゲンハイム美術館(ニューヨーク)、2014年ヴェルサイユ宮殿(パリ郊外)などで大規模個展を開催。2010年、香川県・直島町に安藤忠雄設計の李禹煥美術館が開館している。写真は鎌倉にあるアトリエの庭にて