遺体を食べられますか?漫画で死と生考える 世代超え反響、END展
◇バカボンパパは「三時に死ぬ」
展覧会が開かれているのは、世田谷区の商業施設、二子玉川ライズ。平日の午前中にもかかわらず、多くの人が訪れていた。「死」という重いテーマだが、若者の姿が目立ったのが意外だった。
展示されているのは、昭和から令和まで幅広い時代の名作だ。入館して最初に目に入るのは「天才バカボン」の一コマ。バカボンパパが「わしは金曜日の三時に死ぬと予言されたのだ!!」と語る場面が大きな垂れ幕で来場者を迎える。さらに進んでいくと、「生まれ変わりたいですか?」と書かれた大きな垂れ幕の下に、板垣巴留さんの「BEASTARS」のパネルがある。擬人化されたアザラシとオオカミが、死生観を語り合う場面だった。
また、「自分で死にゆく瞬間を決められるとしたらどんな場所で、どんな状況がよいですか?」との問いには、横山光輝さんの「三国志」から義兄弟が「死す時は同じ日、同じ時を願わん」と誓う一コマが添えられている。ほかにも「進撃の巨人」「大奥」「トーマの心臓」「コジコジ」など、約30作品から死に関連する場面がより抜かれている。
漫画の選出は、情報社会学者やデータサイエンス学者、漫画家などから成るチームが取り組んだ。約100点の候補から厳選したという。
◇漫画には哲学がある
死を問う展示に、なぜ漫画を結びつけたのだろうか。キュレーターを務める一般社団法人「Whole Universe」の塚田有那代表理事(35)は「日本の漫画は、言葉や絵にさまざまな哲学が含まれています。また、漫画は『死』という人間にとって普遍の問いかけに対して、幅広い人とコミュニケーションがとれる媒体だと思いました」と説明する。
反響は塚田さんの予想以上で、開幕から1週間で来場者は3800人に上ったという。想定外だったのは若者の多さだ。死が身近になってきた50代以上をターゲット層に考えていたが、ふたを開けてみると10~20代の来場者が多かったという。ある来場者がツイッターに「自分の愛する存在の遺体を食べられますか?」と書かれた垂れ幕の画像を投稿したところ、10万以上の「いいね」が集まり、関心の高さを感じたという。
◇輪郭のはっきりした「死」
塚田さんは「若者は、新型コロナウイルスの流行や世界情勢が不安定な中で、『死者数』などの言葉を毎日耳にするのに、死の実感がわかないという曖昧な感情を抱えているのではないか」と分析する。来場者からは「輪郭のはっきりした形で死と向き合うことで、生きることに前向きになれた」といった感想も寄せられたという。塚田さんは「死はセンシティブでデリケートなテーマだけれど、漫画は主張を押しつけることなく、ただ寄り添ってくれる」と考え、「展示が家族や友人との対話のきっかけになれば」と願っている。
漫画というツールが若い世代を引きつけた面もありそうだ。塚田さん自身も学生時代、漫画が大好きだった。少女漫画は「かっこいい男の子に女の子が守られている」という構図が主流だったが、萩尾望都さんや大島弓子さんらは、作品を通して新しい性や女性のあり方を提示した。「10代の頃に言語化できなかった社会への違和感を、漫画は可視化してくれた。漫画に救われたと思っている」と語る。
塚田さんの団体はこれまでも、アートやサイエンスといった異なる領域を融合した展覧会などを企画してきた。今回は東急などと主催している。
展覧会は8日まで。平日午前11時~午後8時。土日は午前10時~午後8時。最終日は午後5時まで。入場は無料だが、ウェブ(https://hiraql.tokyu-laviere.co.jp/end-exhibition/)で予約が必要。