天才仏師・快慶に向き合ってつかんだ「仏像撮影」の極意 写真家・佐々木香輔〈dot.〉
運慶と快慶。言わずと知れた日本の仏像彫刻史に偉大な功績を残した人物である。東大寺(奈良市)南大門の金剛力士像は鎌倉時代初頭、運慶や快慶らによってわずか69日間で作られたといわれる。
2人はともに仏像にリアルさを追及した仏師だが、その方向性は大きく異なっていたと、長年、仏像を撮影してきた佐々木香輔さんはいう。
「運慶の仏像は立体的で、どの方向から撮っても絵になる。一方、快慶は写真家と同じようにとても光に敏感で、光というメディアを使って仏像に親しみやすさを込めることにすごく苦心した人です」
■光を操ることへの共感
佐々木さんはこれまでに快慶が作った仏像を60体ほど撮影してきた。その写真を見返していくうちに、「なんでこんなに生々しいんだろう、と思った。暗闇から浮かび上がってくる感じが他の仏像よりもすごくリアルなんですよ」。
その理由の一つが「金泥塗(きんでいぬり)」だという。
「快慶以前の仏像は表面に金箔(きんぱく)を貼って仕上げたんですけれど、快慶は日本で初めて金泥塗の仏像を作った。どろどろの膠(にかわ)液に金をといて、それを赤色や朱色の下地に塗っていく。そうすると、金がにぶい光を放つようになる。赤い下地が透けて見えて、人肌と同じように温かみが感じられる。そんな光に対する繊細さにすごく引かれました」
さらに快慶は仏像の背後にある光明(こうみょう)を表現するための装飾、「光背(こうはい)」にもリアルさを求めた。
「平安時代の光背は板状のものに色を塗った『板光背』だったのですが、快慶は棒状の光背を初めて編み出した人だといわれています。つまり、仏像の背後から光が入るようにすき間をつくった。それによってまさに後光が差しているかのように見える」
佐々木さんはそんな快慶の仏像の魅力を伝えたいと、4月4日からキヤノンギャラリー銀座で写真展「快慶 ひかりを刻む」を開催する。
「これまでにたくさんの仏像との出合いがあったなかで、快慶の仏像に同じ光を操る写真家として共感を覚え、感銘を受けた。それで副題を『ひかりを刻む』としました」
■正反対の仏像撮影
佐々木さんは2007年に日本大学芸術学部写真学科を卒業すると、奈良市にある仏像撮影の老舗「飛鳥園」に就職した。
「ぼくは日芸の卒業制作で出羽三山(山形県)の修験者を撮影しました。石仏なども撮った。祈りとか、そういうものにすごく興味があった。それで飛鳥園を受けて入社し、師匠である写真家・小川光三のもとで2年間働いた」
09年、奈良国立博物館(奈良博)に転職した。
「職場が変わったといえ、飛鳥園は奈良博の目の前にあるので、同じ場所に通ったという感じです」
被写体もそれほど変わらなかったが、撮影内容は大きく変わった。正反対といっていいほどの変化だった。