36時間2092枚の撮影で創る1枚 写真家が伝えたいこと
ウィルクス氏は12年前にDay to Nightシリーズの撮影を開始し、米国だけでなく、世界中の都市や風景を記録してきた。また、その過程で、社会問題や環境問題を写真で伝えたいと強く思うようになった。
9月号の特集では、米国のユタ州にあるベアーズ・イヤーズ、モンタナ州にあるJ・バー・L牧場、ワシントン州にあるシャイ・シャイ・ビーチ、ルイジアナ州ニューオーリンズにあるシティー・パークについて、その自然環境を圧倒的なスケールで紹介している。この4カ所はそれぞれ、個性的で魅力あふれる歴史を持つ。ウィルクス氏によれば、ベアーズ・イヤーズは近年、「どの土地を保護すべきか」という議論の中心になっている。
時間とともに変化する風景を1枚の合成写真にすることは、「いろいろな意味で困難を伴います」とウィルクス氏は述べる。今回は、人が足を踏み入れないようなへき地まで行ってキャンプしながらの撮影であり、当然のごとく、天候の影響も受けた。
「どこに行っても、24~36時間かけ、カメラの位置を固定して1つの視点から撮影します」とウィルクス氏は説明する。「雨であれ、風であれ、さまざまな要因で、目の前の風景は変わりうるのです」
ベアーズ・イヤーズでは、36時間かけて2092枚を撮影し、そのうち44枚から表紙写真を作成した。
ウィルクス氏がベアーズ・イヤーズを撮影したのは珍しい惑星直列のタイミングで、イースター、パスハ、ラマダンの週末でもあった。これらがすべて重なるのは33年に1度の出来事だ。
「天体現象を体験しながら、初期の文明、特に先住民の文化と精神的なつながりを感じました。人々が星に何を見て、どのように日常生活に取り入れていたかを想像したのです」とウィルクス氏は振り返る。
4つの場所を撮影するには、熱帯雨林のぬかるみを機材とともに4時間歩いたり、高さ6メートルの岩の上で約18時間にわたってバランスを取り続けたり、猛烈な風と潮に耐えたりしなければならなかった。シャイ・シャイ・ビーチでは、自然がさらに想定外の試練をもたらしてきた。
「シャイ・シャイ・ビーチから帰るとき、ピューマに追跡されていました」。結局は、全員無傷で戻ることができたが、「ピューマに追跡されながら、すねまである泥道を歩くのは初めてでしたが、とても刺激的な忘れられない体験になりました」
ウィルクス氏は、読者が写真から美しさと畏敬の念を感じ、これらの場所はもちろん、ほかの場所であっても、自然保護に積極的に参加することを期待している。
「科学は今、困難に直面しています。人々がデータを信じないからです」とウィルクス氏は話す。「どれだけ物語を伝え、人々の心を動かすことができるか。それが私たちアーティストの仕事であり、そのようなつながりを感じて、人々は初めて行動を起こすのではないでしょうか」