「全く古びていない」現代を映す古典の名作「三文オペラ」を関西弁で ピッコロ劇団の挑戦的な公演
登場するのは、大都会の底辺に生きるアウトローたち。「匕首(あいくち)マック」の異名を取る強盗団のボス・メッキースは、偽の物乞い連中の親玉・ピーチャム夫妻のまな娘ポリーをたらしこむ。夫妻は手を切らせるため、元愛人のジェニーを抱き込み、脅迫された警視総監ブラウンもかつての戦友を裏切る羽目に。メッキースは、物見高い群衆の待つ絞首台送りになるのだが…。
劇が生まれたのは、都市文化が爛熟(らんじゅく)し、光と闇が交錯する時代。やがて世界は恐慌へ向かい、ドイツではナチスが台頭し、ブレヒトもワイルも亡命を余儀なくされる。彼らが射程に入れるのは、資本主義の矛盾や社会の腐敗であり、現実を変革すべく劇で挑発する。
「コロナ禍による世界の不均衡に経済格差や差別。今の日本も同じような問題に直面しており、日本化しなくても想像力をかき立てられる」と松本。物語はそのままに、演出でテンポを上げていく。「古典が関西でもっと盛り上がれば」と上演を企画したのは、ピーチャム役の孫高宏。「現代と照らし合わせながら作っていきたい」と、ブレヒト劇の世界観を掘り下げる。
セットは、建設中のようにも、解体中のようにも見える工事現場をイメージ。「実態があるのかないのか分からない、中ぶらりんな中で生きざるを得ない」という松本の時代認識を反映したもので、不協和音に彩られたワイル節にも通底するものだ。「明治以来、完成形がないまま工事中」とするこの国は、戦争や災害による破壊にもさらされてきた。登場人物が歌い踊る足場には、そうした足元の不安定さが重ね合わされる。
てんやわんやを繰り広げるピーチャムたちのせりふは関西弁。「舞台を限定するわけではなく、濃いキャラクターを隠そうともせずやり合う感じに、関西弁が生きる」。目指すのは統一感よりも「違いを際立たせること」だという。
メッキース役の岡田力▽ジェニー役の平井久美子▽ブラウン役の吉村祐樹-ら劇団員のほか、ピーチャム夫人役の木下菜穂子とポリー役の松下美波をはじめ計9人のオーディション組が加わった、総勢25人の大型公演。ワイルのソングそのままに、一人一人が個性的な声を響かせる。
県立芸術文化センター(西宮市)で、17日午後7時▽18、19日午前11時、午後4時-の5回。一般4500円、大学・専門学校生3千円、高校生以下2500円。ピッコロ劇団TEL06・6426・8088