9万本の献木と11万人の国民の奉仕で造られ、100年をかけて自然の力で育った「明治神宮の森」
造成する森は神域にふさわしい荘厳な大森林でなくてはならない。しかし、それはすぐにできるものでなく、時間をかけて、自然の力で安定した林に向かうことを考える必要がある。
そこで、理想の森に向かって年数を経て遷移するように、50年、100年後の変化を念頭に置いた四段階の「予想林相図」を作った。図はその模式図である。
それによれば、第一段階は一時的な「仮設の森」である。高くそびえる高木には主にアカマツ、クロマツを配置、そのあいだに成長の早いヒノキ、サワラ、スギ、モミなどのやや低い針葉樹を交える。その下層には将来、優占し、森林を形成するスダジイ、シラカシ、アカガシ、クスノキなどの常緑樹を植え、最下層には灌木類を配置する。
第二段階は樹冠の最上部を占めていたマツ類は、ヒノキ、サワラなどの成長により圧倒されて次第に枯れる。数十年後にはマツ類に代わって、ヒノキ、サワラなどの針葉樹が最上部を支配することになり、マツがそのなかに点在する姿となる。
第三段階は下層に植えたカシ、シイ、クスノキ類の常緑広葉樹が成長し、それらが優占木となる。そのあいだに、前の時代に優占していたスギ、ヒノキ、サワラ、モミなどが混交する。まれにクロマツ、ケヤキ、ムクノキ、イチョウなどの大木も混じる。
第四段階はカシ、シイ、クスノキ類がさらに成長し、150年前後で自然林の姿になる。また、単調な林にしないために、植栽計画に矛盾しないかぎりにおいて、尖ったかたちのクロマツ、サワラ、コウヤマキ、そして新緑、紅葉などで背景の針葉樹の深緑とコントラストを期待し、風致木としてイチョウ、エノキ、カエデ類、ケヤキ、イヌシデ、ムクノキなども植栽されることになった。
委員会では、神社周囲の建物のあり方についても制限を加えた。
防火対策のために一定距離以内の建物建築には警察の許可が必要であること、許可を得ても建築物の屋根は不燃材料で葺(ふ)くこと、静寂な環境を保つために工場、墓地、火葬場、遊廓などの建設は禁止する、とした。
そして、神宮と外部との境界付近、いわゆる外周部について、計画では神宮用地の周囲に高さ1・5メートル、幅1・5メートルの土塁を建設し、外部に対して防火、防塵、防音の役割を発揮させることとし、その上にイヌツゲの生け垣を造成することにした。このような条件の下、森林の造成が開始された。