無言電話から「かすかな水の音」 迅速で的確だった人命救出の現場

■自宅にいない
119番通報があったのは1月4日午前5時13分。かかってきた通報の電話は、終始無言で、呼びかけにも応答しなかった。いたずら電話や間違い電話も疑われたが、出動せずに要救助者がいたら取り返しがつかない。携帯電話の契約情報から所有者の住所を特定、消防隊5人と救急隊3人が所有者宅へ向かった。
所有者宅に到着した隊員らは直ちに建物内を確認した。すると、居間の電気やテレビがついたままにもかかわらず、家の中には誰もいなかった。
これはいったい、どういう状況なのか。隊員は携帯電話にかけ直した。しかし、通話状態になるが、やはり無言のまま。だが耳を澄ませると、受話器の向こうからかすかに「チャラチャラ」(隊員)と水の流れるような音が聞こえた。
近くに水の流れている場所があるはずだ。隊員らはそう判断した。連絡を受けた指令室は衛星利用測位システム(GPS)で発信エリアを特定。消防本部から400メートル以内に携帯電話があることがわかった。
同時に現場の隊員らは、地図で周辺の河川や井戸などの場所を調べていた。自宅の数十メートル東側に川が流れていることがわかり、急行した。
■水に漬かった状態で
真冬の未明の川周辺はまだ暗かった。気温は氷点下3度。隊員が川に近づくと、携帯電話の着信音が聞こえた。
着信音を頼りに近づいていくと、道路から約3メートル下の川に倒れている男性を発見した。男性は水深約20センチの川に左半身が漬かった状態で、右手に携帯電話を握りしめていた。
要救助者を見つけた隊員らは、すぐに普段の訓練で培った迅速な救助活動を実行した。3人が川に入り、男性の容体を確認する。意識はあったが頭を負傷し、低体温にもなって、動くことも話すことできない状態だった。
隊員が男性を背負って川から助け出し、地上の隊員に渡す。そして医療機関に救急搬送。結果的に通報から二十数分での救助劇となった。男性はその後入院して回復に向かっているという。
現場に出動した安納真樹消防隊長は「命を助けることが使命だが、場所の特定が救助のカギとなる。今回はわずかなヒントからいち早くカギを見つけることができ、命を救うことができてよかった」と声に力を込めた。
宇都宮市中央消防署は今月、機転を利かせて迅速に救助活動を行ったとして、救助に当たった救急隊員と消防隊員の計8人を表彰した。(松沢真美)