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海野 敏 初心者でも大丈夫、バレエの楽しみ方【著者に聞く】
2023-06-28
海野 敏 初心者でも大丈夫、バレエの楽しみ方【著者に聞く】

――本書のタイトルは『バレエの世界史』。「バレエの歴史」としなかったのはなぜでしょうか。


 バレエという芸術が単体で生まれたのではなく、政治や経済、社会、文化──つまり世界史と関わりながら発展してきたことを示したかったからです。それに、「〇〇の歴史」では類書があまりに多いので。(笑)

 これまでのバレエ史関連の本は、時代や地域が限定されているものが多いと思います。私も以前、分担執筆で20世紀のバレエ史を書いたことはあったのですが、一人で通史をまとめてみたいという気持ちがありました。

 各章の冒頭には、その章でとりあげる時代の歴史を2ページ程度でコンパクトにまとめました。読者に世界史を意識してもらうために工夫した点です。


――本書では15世紀のイタリアに始まる600年の歴史を描いています。バレエはルネサンスに始まったのですね。


 バレエはヨーロッパの近代化とともに始まり、社会が転換期を迎えるたびにバレエもまた大きく変わったと私は考えています。ルネサンスにはバレエの前身が誕生しました。最初の転換期は17世紀の絶対王政で、太陽王ルイ14世に代表されるフランス・ブルボン朝で基本的な技法が定まりました。

 第二の転換期は、18、19世紀、産業革命と市民革命の二重革命の時代です。それまでは王侯・貴族が宮廷で自ら踊り楽しむものだったのですが、職業ダンサーが劇場で踊り、それを市民が鑑賞するものになったのです。「芸術」という一般概念が生まれたのもこの時代でした。

 そして第三の画期は20世紀前半です。二度の世界大戦、ロシア革命、世界恐慌が起こりました。芸術の面ではモダニズムの時代で、ディアギレフの主宰した「バレエ・リュス」が最先端の音楽・美術・文学を取り込み、バレエを総合舞台芸術に変えました。その後バレエは世界へ広まったのです。


――本書を執筆して見えてきた、バレエのあるべき未来を教えてください。


 バレエは政治・経済の動きと密接に関わっている、というのが本書の趣旨ですが、一方で、政治・経済の状況にかかわらず、芸術を自由に鑑賞できる社会になってほしいですね。

 昨年のロシアのウクライナ侵攻以来、ロシアのバレエ団やダンサーが来日できなくなったのは周知のとおりです。新型コロナウイルス感染症のパンデミックで、日本では「舞台芸術は不要不急」という雰囲気になったのもショックでした。日本にも劇場文化が深く根づいてほしいと痛切に思っています。

 バレエ公演にはお金がかかります。ダンサーやオーケストラはもちろん、舞台美術、衣装、照明も必要ですから経費は膨大で、社会と行政の支援がなければ維持が難しいのが実情です。


――本書を読んで関心を持った読者に向けて、バレエの見方や楽しみ方のアドバイスをお願いします。


 何よりもまず、劇場に行って生の舞台を見てほしいですね。テレビや動画ではなく、ステージ上で踊っているダンサーを生で見ることでしか伝わらないものがあります。「いま、ここ」でしか感じられないもの──それは音楽や演劇でも同じことでしょう。

 その上で、何をどのように見ればよいか。見方は自由なのです。音楽や物語、衣装を楽しんでもよいですし、舞台間近の席から主役の踊りを追いかけたり、ダンサーが集団で踊る群舞を劇場の後方席から眺めたり……。

 私はいつもダンサーの体の動きを楽しんでいます。優雅に見えますが、実はバレエは苛酷な舞踊で、幼時からの長時間にわたる訓練と肉体の改造が必要なのです。西欧近代化の波に洗われた独特の様式美は、他のどの舞踊とも異なる美しさと迫力があります。本書の最終章には、バレエ独自の「美」の本質について、少し書きました。

 日本では子どもから大人まで、推定25万人がバレエを学んでいますので、家族や知人がバレエを習っている人は少なくないはずです。そうした小さなきっかけから、一度劇場に出かけて生のバレエを見てほしいですね。


(『中央公論』2023年7月号より)


◆海野敏〔うみのびん〕
1961年東京都生まれ。東洋大学社会学部教授。東京大学大学院教育学研究科博士課程満期退学。専門は情報学、図書館情報学。舞踊評論家として批評・解説を新聞・雑誌等に執筆。著書に『バレエとダンスの歴史』(共著)、『バレエ・ヴァリエーションPerfectブック』など。

ソース元URL:https://news.yahoo.co.jp/articles/4270bb0a4b446b87391abc4a77fc140a7e98f1d6

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