『人間失格』が10代に根強い人気を誇るのはなぜか? 中高生に「再発見」された文学作品の需要
背景として考えられるのは、2013年から連載が始まった原作・朝霧カフカ、漫画・春河35によるマンガ『文豪ストレイドッグス』(『文スト』、KADOKAWA)や、2016年にリリースされたブラウザゲーム『文豪とアルケミスト』(『文アル』、DММ GAМES)のヒットである。
両作ともに、太宰をはじめ芥川龍之介、江戸川乱歩ら近代文学の文豪をモチーフにした、異能の力をもつ同姓同名のキャラクターが登場する。ともに女性を中心に高い支持を得て、アニメ化、舞台化もされている(ちなみに『文スト』の小説版も、学校読書調査にランクインしている)。角川文庫は2016年から、アニメ化に合わせて『文スト』のキャラをデザインしたコラボカバーで『人間失格』をはじめとする近代文学の名作を刊行している。
しかし単にそれだけの理由なら、同じく『文スト』や『文アル』でメインキャラクターとして登場する中島敦の『李陵・山月記』、織田作之助の『夫婦善哉』なども、同様に人気が出ていいはずである。加えて『文スト』や『文アル』には、太宰以外の人気キャラも当然存在する 。にもかかわらず、『人間失格』を除けば太宰の『斜陽』、江戸川乱歩作品と夢野久作の『ドグラ・マグラ』、芥川龍之介の『羅生門』くらいしか学校読書調査の上位作品には見当たらず、なかでも中高生には『人間失格』が突出して、かつ、継続的に読まれているのである。
これらを鑑みると、太宰をモチーフとするキャラクターが人気になったおかげで、作家・作品の認知が改めて広がった、ということだけでは『人間失格』人気の説明はつかない。作品を「知る」きっかけが存在することと、中高生が実際に選んで「読む」にまで至ることはイコールではない。彼らが「知った」上で「選ぶ」理由は、小説の中身に存在する。
中高生が読んでいる本を眺めていくと、本の内容や設定が次の「三大ニーズ」を満たしていることが推察される。「正負両方に感情を揺さぶる」こと、「思春期の自意識、反抗心、本音に訴える」こと、そして「読む前から得られる感情がわかり、読みやすい」ことである。
それぞれについて、『人間失格』の内容と照らし合わせて整理してみよう。