昭和のトラック魅了され 少年時代に撮影した1000枚、写真集に
写真集には、半世紀以上前の昭和40年代に京浜地域の港湾や工場地帯、開発工事現場を走る大型車両を撮影した約1000枚が収められている。資材を運搬するトラックや土砂を運ぶダンプカー、石油を載せたタンクローリー、大型コンテナを引くトレーラーなど車種は多彩。運転席から長く伸びた鼻を特徴とし、今では見られなくなったボンネット型の車が多い。静遙さんが小学6年の時に父から譲り受けたカメラ「オリンパス・ペン」を首から下げ、約6年間で撮りためた5000枚にも及ぶコレクションの一部だ。
当時、乗用車に興味を持つ子どもは多かったが、土ぼこりをあげて走るダンプカーは見向きもされなかった。生まれ育った東京・吉祥寺の周辺で通過する車を撮影していたものの飽き足らず、日曜日には自転車にまたがり、20キロ以上離れた東京湾の晴海や豊洲、横浜などの岸壁まで行ってトラックを追いかけた。「乗用車にない大きさと力強さ。特にボンネット型の魅力的なフォルムにひかれた」という。大型トレーラーを見事に乗りこなす運転手にも憧れを抱き、大型運転免許も取得した。
高校3年生まで撮影を続けたが、興味がサーフィン、更には絵画へと移る中で、トラックを写したフィルムは押し入れにしまい込まれた。それから30年以上が過ぎ、書店で偶然にバスやトラックの写真集を見付けた時のことだ。ページをめくると自分が撮った写真の方が古いことに気づいた。出版社に企画を持ち込み、2012年に「昭和40年代の東京トラック風景」(ネコ・パブリッシング)を出版した。昭和40年代のトラックの写真資料は貴重だったようで、マニアたちから注目され、専門雑誌で連載も持った。
2冊目となる今回の写真集は、保管するフィルムを全てデジタル化した上で自ら編集を手がけた。当時の車のデータなどを自分で調べあげ、「トラックの昭和」を概観する内容に仕上げた。「昭和40年代はボンネット型からキャブオーバー型に移行する時期で、車種が多彩でトラックの黄金期。いい時代の写真を残せた」と満足そうに話す。
本業の絵画は20代から独学で取り組み、県内各地の里山を巡って、年々少なくなる火の見やぐらやかやぶき家屋、古びた水門など「古き良き日本の原風景の脇役」を題材にしてきた。少年時代に熱中したトラックやダンプも昭和の発展期を支えた縁の下の存在。静遙さんは「昭和のなんともいえない情緒や風情を醸すものを追いかけてきたという意味では里山の風景もトラックも同じ」と懐かしそうに話した。