大分駅ホームの「怖い物」が話題 駅長発案の正体は・・・
大分駅の3、4番線ホームに立つとただならぬ視線を感じた。幅2・9メートル、高さ2・4メートル、奥行き4・8メートルの喫煙室の中から、ぎょろりとにらみつける大きなオレンジ色の二つの目。胴体はトラとクジャク、頭はクジャクとゾウ。見る角度によって表情は変わる。夜に再び訪れると、喫煙室の天井の四隅から照らされた淡い光で一層神秘さを増していた。
大分県内在住の2人組の絵本作家・美術家ユニット「ザ・キャビンカンパニー」が制作した何とも不思議な立体作品の名前は「キメラブネ」。ギリシャ神話に登場する、異なる生物が合体してできた「キメラ」に着想を得た。さらに喫煙室を中世の南蛮船に見立てることで、南蛮文化とともに外国の珍しい動物が伝わり、新しい人や文化の窓口となった中世の大分を表現。人や物の発着点である現在の大分駅とも重ね合わせた。
作品は2021年12月に登場し、今年1月、乗降客らのツイッターで「大分駅にバケモン」と面白がって投稿されると、約10万件の「いいね」が集まるなど反響を呼んだ。「一瞬ギョッとしたけれど、無機質なホームの印象が明るくなった」。大分駅に到着した列車からホームに降り、キメラブネを目にした女性(45)は感想をそう語った。
20年4月の健康増進法の全面施行により、大分駅も他の駅と同様、構内を全面禁煙にして喫煙室も廃止した。使い道のなくなった喫煙室をギャラリーにして、大分ゆかりのアーティストの作品を展示することを思いついたのは、高校時代に工業デザインを学び、アートに対する造詣が深かった大分駅の甲斐裕明駅長(58)だ。
「コロナ禍で密集が忌避される中、野に咲く一輪の花のようにホームにいる時だけでも明るい気持ちになってもらおう」。甲斐駅長は大分市立美術館の協力を得て、21年7月から5、6番線ホームの喫煙室に大分市の画家、北村直登さんのアトリエをイメージした作品を展示。次いで登場したのが県立美術館の協力を得たキメラブネだ。7、8番線ホームの喫煙室には、かつて使用していた特急列車のヘッドマークや大型の鉄道模型などを展示している。
大分駅では今後も作品の入れ替えをして、さまざまな作品を紹介していく予定だ。甲斐駅長は「SNS(ネット交流サービス)での反響には驚いた。人々が集う玄関口を豊かな文化の発信地にしていきたい」と意気込む。【今野悠貴】