生き物好〝紀〟心 植物悲喜こもごも ミョウガ 自然の味、古来より
ミョウガというと、そうめんや刺し身の薬味を思い浮かべますが、野生植物として図鑑に紹介されています。ミョウガはショウガ科の多年草で日本では古くから栽培され、県内でもよくスギ林の下草としてみられます。
夏、地面に出る花芽を摘み取って食べます。この花芽は植物学的には「花序」と呼んでいます。古い時代に中国から渡来したといわれる一方、詳細は定かではありません。
ある日、自然博物館に「夏ミョウガと秋ミョウガの違いを知りたい」という相談が寄せられました。さまざまな資料を調べると、高野山植物目録には単に「ミョウガ」と掲載されていること、夏ミョウガと秋ミョウガは種として厳密には区別されていないことや、和歌山県高野町を中心として伊都地方の特産品であることがわかりました。
「紀州の園芸(森静雄氏著、昭和50年発行)」という文献には、ミョウガ栽培の歴史が紹介されています。斜面に広がった畑の様子に驚き、地元の方にお話をうかがったところ、7月末から収穫されるものを「夏ミョウガ」、お盆過ぎから9月にかけてのものを「秋ミョウガ」と呼び分けているとのこと。さらに、秋ミョウガは夏ミョウガに比べてふっくらとしており、甘酢漬けなどにして味わうということでした。
花芽以外にも、春に顔を出す葉の若芽を「タコナ」と呼んで食用とし、刻んでちりめんじゃことあえて味わうそうです。
高野町ではミョウガ畑の面積は最盛期に比べて減少しているとはいえ、今も山裾などで栽培されています。スギやコウヤマキの落葉落枝や刈り取った草、わらなどを根元にしっかりとかぶせることによって、品質のよりよいものが得られるそうです。
紀伊半島には古くから山間部に人が住み、数々の災害を乗り越えながら生活を営んできました。野生植物の中には、ミョウガのように古くから栽培され、人の生活と深い関わりを持った植物も数多く存在します。
植物の伝統的利用法を調べる研究分野を植物民族学といいますが、そのような分野にも注目して活動の裾野を広げていければと思っています。最後に、調査に協力いただいた高野町筒香寄合会の皆さんに厚く御礼申し上げます。(和歌山県立自然博物館 主任学芸員 内藤麻子)