ドキュメンタリー映画の撮影現場で、監督がカメラマンに指示をほぼ出さない理由とは?師弟関係の2人が語り合う撮影のポイント
満若 きょうは、ドキュメンタリーのカメラマンは何を考えながら撮っているのか。そういう話をしていたけたらと思っています。
辻 ぼくは普段テレビのドキュメンタリー番組、ドラマ、劇映画の撮影をしています。まず満若監督との関係を説明しておきますと、彼はカメラマンとしてはわたしの弟子にあたるんですね。『私のはなし 部落のはなし』では、彼は監督なんですが、普段はドキュメンタリーのカメラマンをされている。
満若 22歳のころに辻さんに出会い、実は辻さんの手がけた作品を一つも観ずに弟子入りをお願いするという非常に失礼なことをしたにもかかわらず、それを逆に面白がっていただけて、15、6年の付き合いになっています。その話は著書の『「私のはなし 部落のはなし」の話』に詳しく書いてありますので、きょうは端折らせていただいて。
辻 ああ、でも、その話面白いので、もうすこしだけ。いま満若監督はすごく評価されていますが、この場ではあえて満若くんと呼ばせてもらって。彼は東京に出てきた当時から「部落問題」に対する問題意識をもっていまして。かれこれ10数年前になりますが、いずれはこういう映画を作るだろうと思っていましたし、言ってたんですよね。
満若 言ってはいないです(笑)。
辻 あれ、言ってない(笑)。
満若 映画になれば、と話したかもしれないですが。
辻 ああそうか。それで、彼の大阪芸術大学時代の先生が原一男さんで。「監督になりたいんだったら、カメラマンが早道だ」と言われて、ぼくのところに来たんだよね。ということで、この映画は重要な社会問題を扱っていることもあって、そうした切り口で語られ評価されることが多いんですが、「映画」として見たときに満若くんはカメラマン出身なので、映像表現としての完成度について相当程度意識されていたと思うんですが、どうですか?
満若 ええー、その点、ぼく自身は無意識だったと思います。せっかくの話の腰を折ってしまって、すみません。
辻 ハハハハハハ。
満若 自分としては30歳の総決算という意味合いもあって、撮影は師匠である辻さんにお願いしたんですね。逆に辻さんの方から、このシーンは頑張って撮ったんだという話をしていただけると。