大ヒット『生物はなぜ死ぬのか』東大・小林武彦教授が生物を志すきっかけになった「人生を変えた本」8選
たとえば『ドラえもん』や、『きまぐれロボット』をはじめとした星新一さんの作品を読んで、まだ見ぬ未来に強い憧れを抱いていましたね。ちばてつやさんの『おれは鉄兵』を手に取って、主人公の自由奔放な少年のように、恐れずに色んなことに挑戦してみようと感じたこともありました。
まず大きかったのは、遺伝子についての示唆を得たことですね。人間の生きざまは、それまでは経験や訓練、習慣などによって決まると思っていたのですが、そうではないことがこの本でわかりました。人間の生きざまは、もともと組み込まれている遺伝子によって規定される部分が多く、それは分子生物学によって証明されるのだという指摘は目から鱗でした。
当時はちょうど、「人間とは何か」といったことを漠然と考えていたのですが、精神論ではなく唯物論的な、かつ納得できる解をこの本から得たように思いました。それまでは文系の道に進もうと思っていたのですが、この本を読んだことで理系の面白さを感じ、大学では生物学を学ぶことに決めたんです。
大学に入ってからもさまざまな本を読みましたが、以下は生物学者としての私に大きな示唆を与えてくれた本になります。
『裸のサル』は人間とほかの霊長類との違いから、人間の本質をあぶりだしていく名著です。
人間とチンパンジーでは、実は遺伝子レベルではほとんど違いがなく、約99%が同じになります。では、大きな違いはどこにあるのか。それはずばり、体毛の有無です。
体毛がなくなったことで、人間は寒さへの耐性がなくなったので、火を起こすことや、温かさを保つ家を作る必要性が生まれてきました。
また、子育ての仕方も変わりました。チンパンジーの赤ちゃんはお母さんの毛にぶらさがるのですが、人間はそれができないので、お母さんが抱っこをする必要が出てきたんです。ただ、それだと労力がかかるので、お母さんだけではなく、ほかの家族が育児を手伝うようにもなりました。
これは一例ですが、『裸のサル』ではこうした流れで文明ができあがってきたことが示唆され、単なる知能の発展だけに留まらない、進化の豊かさを実感させられました。