内戦終結から5年 「食の力」でコロンビアを変える女性たち
私がブーツの底で踏みしめているのは、50年以上に及ぶ内戦で使われた武器を溶かして作られた、鉄の床だ。その内戦による死者は、22万人と伝えられている。表面の凹凸は、内戦中に性的暴力の被害にあった女性たちが、手で打ち出した型がもとになっている。
コロンビアの首都、ボゴタ。国会議事堂にほど近いそのエリアには、一段と厳しい警備体制が敷かれていた。
そこに「フラグメントス(Fragmentos、スペイン語で断片という意味)」と呼ばれる記念館が設立されたのは、停戦から2年の歳月が流れた2018年。鉄の床が敷かれた建物の中心には、真っ白な空間が広がっている。「被害者の心の中の空虚な思いを表現するため」と、このプロジェクトに関わった、女性ビジュアル・アーティスト、ドリス・サルセド氏は語る。
しかし、歴史を遡れば、この国を代表する金属は鉄、ましてや血塗られた武器などではなかった。
かつてこの国は、エル・ドラド(黄金郷)と呼ばれ、1000年以上前から、豊富に採れる金で繊細な装飾品を作り、信仰する太陽の神へ捧げてきた。大航海時代から、その噂を聞きつけた多くの冒険者たちが憧れ目指した、そんな場所だ。「フラグメントス」から徒歩15分ほどの場所には、栄華を極めた往時の美術品が収納された黄金博物館がある。
そんなコロンビアの輝きを食の力で取り戻そうと、活動している女性たちがいる。
カリブ海と大西洋という二つの海、アンデスの山からアマゾンのジャングルまで多様な自然を持つコロンビアは、世界有数の生物多様性でも知られる。文化的にも、多様な先住民文化に、海を渡ってきたカリブ海やアラブ、アフリカ、スペインなどの影響が加わり、一層の多様が生み出されている。
これらを「生きた美術館」のように表現しているのが、“ラテンアメリカのベスト女性シェフ”にも選ばれ、「世界のベストレストラン50」でも46位にランクインしているレオノール・エスピノサシェフと、彼女が率いるレストラン「レオ」だ。