植物を愛でると癒されるのはなぜか…植物の「超越的な力・知性」が人を癒していた
最初に花を愛でた人々(The first flower people)、そう呼ばれたのはネアンデルタール人でした。
1950年頃、コロンビア大学の先史学者ソレッキー教授はイラクの洞窟で人骨の化石を発見します。複数のネアンデルタール人が屈んだ状態で埋葬されており、周囲の土からは多種多様な花粉が発見されました。彼らは同胞の死を悼み、美しい花々を死者へ手向けたのです。
人類は6万年前から花を愛でていた。
この発見から、ネアンデルタール人は豊かな感性を持った慈悲深い人類であったと推測されます。それまで考えられていた、野蛮で感情的な原始人という定説をすっかり覆し、歴史に残る最古の園芸家となりました。
しかし、どうして僕たちは「人類が花を愛でていた」と自明視しているのでしょうか。
「人類が花に愛でさせられていた」ではなく。
僕が運営する観葉植物専門店「REN」で手がける植物ケアサービス「プランツケア」の最前線で、日々、植物と向き合う僕にとって「人間が植物に生かされている」と感じた経験は枚挙にいとまがありません。正直に告白すると、植物は人間の生を凌駕した「超越的生命」であると考えています。
幸いなことに、どうやらそう考えたのは僕だけではないようです。
イスラエルを代表する歴史学者ユヴァル・ノア・ハラリは、全世界で2000万部超を売り上げた大著『サピエンス全史』(河出書房新社)で、農業革命について舌鋒鋭く語っています。
大摑みに言えば、「人類が植物を栽培化したのではなく、人類が植物に家畜化されたのだ」といった主張です。またジャーナリストのマイケル・ポーランも『欲望の植物誌 人をあやつる4つの植物』(八坂書房)で、「農業とはイネ科が樹々を征服すべく、人間にやらせたことだと考えてもおかしくはない」と記しています。
また、イタリアの植物学者ステファノ・マンクーゾは『植物は〈知性〉をもっている 20の感覚で思考する生命システム』(NHK出版)で、植物の知的な営みを最新の研究によって明らかにしました。
副題の通り、植物は人間以上に様々な感覚があることを多くの事例とともに紹介しています。植物は地球上の多細胞生物のバイオマス(総重量)の99%も占めている。この事実からも、「地球は植物が支配している生態系」であり、「そこに議論の余地はない」と言います。
そして、多くの方が興味関心のある「植物に知性はあるのか?」という問い。
これにも、知性を「問題解決力」と定義するなら、「植物は私たちが考えているよりも(中略)はるかに優れた知性をもった生物だ」と明言しています。
この本は世界的な植物学者が、科学的に分析し、植物の「知性」を初めて解き明かした記念碑的な一冊です。2015年に日本語翻訳版が発売されて以降、多くの業界関係者に衝撃を与えました。もちろん僕も多大な影響を受けた1人です。