【新刊紹介】日本の行く末を憂いた渾身の回顧録:岡本行夫『危機の外交 岡本行夫自伝』
橋本、小泉内閣で2度、首相補佐官を務めた外務省OBの岡本行夫氏がコロナ感染で死去したのは2020年4月のことだった。享年74。本書は、日米外交にまつわる自らの体験談を後世に伝えるべく、長年にわたって執筆を続けてきた渾身の回顧録である。
私が知る岡本行夫氏は、眼光鋭く、外交を熱く語る人だった。最後にお目にかかったのはコロナ前、偶然、寿司店のカウンターで隣り合わせたときに、「自伝を書いている。かなりできあがっている」と伺った。それが遺作となった本書であった。
岡本アソシエイツ・ゼネラルマネージャー藤澤美子氏の「あとがきにかえて」によれば、本書は岡本氏の「ライフワーク」であったという。1990年、外務省北米一課長だった岡本氏は、湾岸戦争での日本の貢献策として援助物資の調達に奔走したが、人員を派遣しない日本に対する米国の反応は「屈辱的なもの」だった。
そのときの経験から、同氏は「アメリカの学生たちが日本研究をする際に副読本になるような本を英語で書きたい。正しい日米同盟、日米関係を理解してもらいたい」との強い思いが、本書の執筆動機であったという。同時に、日本の読者にも新しい情報を伝えるために、この日本語版が刊行されることになった。
本書は、岡本氏の生い立ちに始まり、外務官僚としてかかわった日米経済摩擦、湾岸戦争、さらには首相補佐官として情熱を傾けた普天間基地移設問題、イラクの復興支援について、その外交の舞台裏が克明に記述されている。総じていえば、国家の安全保障よりも省益を優先する官僚主義との孤軍奮闘の戦いであった。そこには初めて明かされる秘話が盛りだくさんで興味深い。
さらには「日本外交の最大課題」として日中、日韓関係の問題点と展望について詳述し、北朝鮮の脅威や台湾有事についても自身の見解を披瀝する。一貫しているのは、安全保障の上で、日本は日米同盟以外に選ぶべき道はないという立場だ。