「さっさと終わってお酒飲みたい」第168回直木賞の小川哲さん会見(全文)
司会:では小川さん、まず今のお気持ちからお願いいたします。
小川:本日はお忙しい中お集まりいただいてありがとうございますというのと、こうやって会を準備していただいた日本文学振興会に感謝をした上で、本当に正直に今の気持ちを言うと、さっさと終わってお酒飲みたいなと思ってます。
司会:ありがとうございます。ではご質問のある方、挙手をお願いいたします。はい、どうぞ、そちらの女性の方。
記者:すいません。読売新聞の小杉と申します。このたびはおめでとうございます。
小川:ありがとうございます。
記者:受賞のことを一番最初に、どなたに、どんなふうにお伝えされたんでしょうか。
小川:母親にLINEで受賞って2文字送って。未読でした。
記者:あ、まだ未読?
小川:いや、しばらくたって、たぶんテレビとか、こっちでたぶん結果出たはるかあとに、すごいって来ました。
記者:あ、すごいということで。そのほかになんかおっしゃってました?
小川:いや、何も。僕がたぶんもう今、携帯が、忙しいことを察知してるのかは分かんないですけど、なんもたぶん。来てるかもしれないですけど、ちょっといっぱい来ちゃってるんで、メッセージがね。分かんないですけど。
記者:ありがとうございます。あと、子供のころから、おじいさまの戦争体験を聞いていて、それもちょっと、作品にも少し、お話に触れてらっしゃいましたけれども、おととし亡くなられたおじいさまにはどんなふうに報告をされたいでしょうか。
小川:全然考えてない質問来たな。そうですね。僕が小説家になったことをすごく喜んでいたし、祖父がまだ、晩年ちょっと認知症になっちゃったんですけど、頭がしっかりしてるころに、ほかの文学賞とかいただけて、そういうところである程度、恩返しすることはできたのかなとは思ってるんですけど、僕は天国とかそういうのをあんまり信じてないんで、特に死んだ人に対して伝えることはないです。すいません。
記者:ありがとうございます。あと選考委員の宮部さんからも、すごく、満場一致に近いような形で、小説が持ってる魅力の全てが内包されているような作品だったと絶賛する声がありまして、作品自体も、連載含めて3年半ぐらい、かなりの大作だと思いますけれども、あらためてこういった大きな賞をいただいたときの、ちょっと、受け止めをお願いいたします。
小川:いや、山田風太郎賞のときもそうだったんですけど、賞に、候補に選んでいただいて、受賞したり、しなかったりしたこともあるんですけど、僕は。ていうのは、でもあんまり僕からすると、どこか人ごとというか。僕の中ではやっぱり、この『地図と拳』という小説を書き上げて、直して、出版までなんとかたどり着いたっていうところで一区切りというか、作家としての仕事は終わってると思うんで。もちろんこうやって書いた本が、評価していただいて、世に広く読んでもらう機会をいただけたことは大変うれしいんですけど、作家としては変わることなく、目の前の原稿を1つずつ書いていきたいなと思ってます。
記者:変わることなくということで、宮部さんからは、これからは色気とかもちょっと書いてほしいなという声もありましたけども。
小川:(笑)。実は宮部さんの講評というか、選考経過の、その裏で聞いてたんですけど、宮部さんが言ったんですかね、宮部さんじゃない人が言ってそうな感じが、気もするんですけど。でも僕が書きたくなったら書くし、書きたくならなかったら書かないし。自分で書くものは自分で決めつつ、心のどこかにとどめておこうと思います。