「人の間に国境はない」 中国残留邦人3世、留学体験記を出版
中国残留邦人は、戦前・戦中に旧満州(現中国東北部)へ「満蒙開拓団」と呼ばれる農業移民などとして渡り、終戦の混乱で現地に取り残された日本人。これまでに身元が判明した約6700人が永住帰国した。
大橋さんの祖父は、開拓団員の家族と終戦時に離散し、5歳から中国人に育てられた残留孤児だ。祖父と中国人の祖母の長女として中国で生まれた2世の母春美さん(53)は、8歳で一家と祖父の故郷の長野県に永住帰国し、苦学して中学の英語教師になった。大橋さんは2007年から3年間、春美さんの北京師範大学の留学に合わせ、現地の小学校に通った。
日本の自宅では日本語が中心だったため、当初、中国語は全く話せなかったが、体験記では7歳の「僕」の視点で、折り紙作りなどクラスメートとの交流から、徐々に言葉を覚え、新生活に慣れていく様子をつづった。
一方、歴史の授業では、日本軍による侵略について繰り返し教えられ、日本人の自分が責められているような気がした。「誰も僕と遊んでくれなくなる」と怖くなったが、同級生は優しく受け入れてくれ、「人と人との間に国境はないんだ」と思えるようになった。
3年間の滞在を終え、帰国した大橋さんは、祖父母とも中国語で話せるようになり、自身のルーツを自然に理解するようになった。日本の教科書では、開拓団や、中国で突きつけられた負の感情を知ることはできなかったが、勇気を出して歴史を学び、祖父母の苦難の歩みを知った。
それ以来、自身のルーツにも誇りを持ち、多様な視点で考える癖ができた。鉄道好きが高じて、大学では機械工学を学び、今年4月からは大学院に進む。将来は技術者として活躍する夢を描く。中国語のスキルは、留学生とのコミュニケーションに役立っており、中国の小学校で出会った同級生との関係は今も続いている。
体験記は新型コロナウイルス禍で直接友人らと会えなくなる中、中国で過ごした日々を振り返り、人とのつながりの大切さをあらためて形にしようと執筆した。大橋さんは「本を通じ、僕の中国での経験や思い出を共有してもらい、日中の相互理解につながればうれしい」と力を込める。
1760円。発行元は日本僑報社(03・5956・2808)。