主役は「おじさん」。太田記念美術館の「広重おじさん図譜」に見る表情豊かなモブキャラたち
~ 1858)の絵に登場する味わい深い人物たちをあえて「おじさん」とし、その魅力を眺めてみようという企画だ。担当学芸員は渡邉晃。
本展は、もともと岐阜の中山道広重美術館で開催された「ゆる旅おじさん図譜」(2018)と「ゆる旅おじさん図譜リターンズ」(2021)を着想源としたもの。当時、展覧会にレクチャーで関わった渡邉が、同じコンセプトの展示を太田記念美術館の収蔵品でやりたいと中山道広重美術館にオファーし、本展が実現に至ったという。
展示は「いろんなおじさん」「おじさんたちの狂宴」「街道の旅とおじさん」「物語の中のおじさん」「おじさんがいっぱい」の5章構成。前後期合わせて約150点の作品が出品されるが、章構成からもわかる通り、主役はすべておじさんだ。保永堂版「東海道五拾三次之内」「木曽海道六拾九次之内」といった広重の代表作はもちろん、おじさんに着目したからこそ選ばれた作品も数多く並んでいる。
とくに展示冒頭(かつもっともボリュームがある)の第1章は面白い。ここでは、広重作品に登場するにこやかなおじさんたちの表情がわかりやすく、様々な切り口で並ぶ。
「笑顔のおじさん」から始まり、画中で何かを食べたり飲んだりする「食べてるおじさん」、籠を担いだり大工仕事をしたりする「がんばるおじさん」、客引きに連れて行かれそうになったり急な雨に遭遇したりで「あわてるおじさん」、そして「おじさんの休息」まで、日常のささやかな場面を切り口に、わかりやすい展示がなされている。
ではこうした広重のおじさんたちにはどのような特徴があるのだろうか?
風景画の主題はあくまで「風景」であり、おじさんは脇役(いまでいうモブキャラ)として描かれることが多い。しかしながら、広重のおじさんは一人ひとりが骨格から服装まで細かく丁寧に描き分けられており、そこから身分や職業がわかることはもちろん、人間関係の「ドラマ」を想像することもできる。
また渡邉は、広重の特徴として「風景に馴染んだ人物」が描かれている点を挙げる。広重は高い画力も持ち合わせていたが、風景画ではあえて登場人物たちをデフォルメさせている。そうすることで、風景と人物が絶妙なバランスでブレンドされのだ。またスナップ写真のような構成も、そうしたバランス感覚が優れていたからこそ成し得たものではないだろうか。
なお本展では、広重だけでなく葛飾北斎や歌川国貞、歌川国芳、小林清親といった浮世絵師たちが描いたおじさんたちも「みんなのおじさん」として紹介。国貞が描いた「江戸のシンクロナイズドスイミング」である《極暑あそび》(1852)や、これでもかと表情豊かなおじさんを描いた国芳の《百色面相》(1830~44頃)など、絵師によって異なる個性も存分に味わってほしい。
おじさんという視点を設定することで、これまでにない広重の魅力に気づかせてくれる展覧会だ。