長年のお悩みも解決! 「将棋フォーカス」収録裏話[山口恵梨子コラム]
特に挑戦者決定三番勝負の2局目は、なんと、本格居飛車党を自認する山崎八段が四間飛車を選択! にもかかわらず、囲いにとらわれない指しまわしで、途中からは、相居飛車のような戦いに。当日はSNSで四間飛車もトレンド入りするぐらい、まさに力戦って感じの大熱戦だったのですが、得意の穴熊の高い守備力を武器に押し切った広瀬八段の“穴熊感覚”や対応力が素晴らしかったと感じました。近く掲載される観戦記、早く読みたいなと思いますし、秋から始まる竜王戦七番勝負での戦いも今からホントに楽しみです。
さて、今回は今年の4月からサバンナ高橋さんと司会を担当させていただいているNHKの「将棋フォーカス」について書こうかなと思います。みなさんご覧いただいていますか? 元乃木坂46の伊藤かりんさん、乃木坂46の向井葉月さんが強くなっていく過程を視聴者が応援しながら見守る前年度までとガラッと番組の方針が変わり、アマ級位者向けの内容から、将棋のルールだけ知っていれば楽しめる「観る将棋ファン」向けの内容になりました。
平成の半ばぐらいまででしょうか。将棋の普及において、より将棋を楽しむためには、より将棋が強くならなければならない、という“暗黙の了解”があったと私は思っていたので、「強くならなくても将棋は楽しめるんだよ」というメッセージを、テレビ番組を通して送ることは画期的なことだなぁと考え、お仕事を受けさせていただきました。
3月から収録が始まり、サバンナ高橋さんの番組作りにかける情熱とこだわりに感銘を受けると同時に、自分が今まで聞き手や司会でできていなかったことがぽつぽつわかってきました。一番は緩急をつけること! 私がトークで一番評価してもらってきたのは、声に感情を込めて話すところだったのですが、将棋フォーカスの収録でいろいろアドバイスをもらう中で、自分の場合、すべての言葉に感情を込めていたので、逆にどこがポイントなのか、視聴者さんに伝わりづらくなっていたことが分かりました。長年の悩みが解消しました(笑)。
ゲストにも、すてきな棋士の先生方にたくさんお越しいただきました。中でも9月4日放送回のゲスト棋士・谷川浩司十七世名人が、収録が終わった後にサバンナ高橋さんに「将棋界のためにいつもありがとうございます」と深々と一礼されていたのが忘れられません。私も将棋界を盛り上げようと尽力してくださっている全ての方々に感謝しながら日々を過ごしたいなと思いました。
番組では、高橋さんに時間管理、アドリブトークなどを担っていただいているので、私は基本、大盤を使ったプロ棋士の棋譜紹介などに専念させてもらっています。これからも学びながら、より楽しく、わかりやすく将棋の魅力を視聴者のみなさんに伝えられるよう、頑張ります!
山口 恵梨子(やまぐち・えりこ)
日本将棋連盟所属の女流棋士。堀口弘治七段門下。16歳で女流棋士となり、2010年に初段、16年二段に昇段。白百合女子大学卒。将棋が好きな人のためになる情報満載の「 女流棋士 山口恵梨子ちゃんねる 」をYouTubeに開設。ツイッターは @erikoko1012