往来が戻った先を予見するアートが並ぶ『六本木クロッシング2022展:往来オーライ!』|青野尚子の今週末見るべきアート
「六本木クロッシング」は複数のキュレーターが今の日本の現代アートシーンを定点観測的に紹介するシリーズ展。「クロッシング」(交差点)の名にふさわしく、さまざまに交差する文化の様相を映し出す。今回の「六本木クロッシング2022展」の担当キュレーターは4人、22組の作家が登場する。展示には「新たな視点で身近な事象や生活環境を考える」「さまざまな隣人と共に生きる」「日本の中の多文化性に光をあてる」という3つのトピックスで構成されているが、各作品が厳密に分類されているわけではない。
「今回はコロナ禍で準備した展示になります。日本人キュレーターのみだと内向き過ぎてしまうかなと思い、日本在住経験のある海外のキュレーターにも参加を依頼しました。テーマの『往来オーライ!』には人々が行き来するようになったその次を考えよう、という意図が込められています」と担当キュレーターの一人、森美術館の近藤健一は言う。
「往来オーライ!」の「オーライ」は「大丈夫」という意味だが、本当に大丈夫かな、と思える作品もある。その一つが寿司をモチーフにした市原えつこのインスタレーションだ。大将はロボットで、レーンには遺伝子操作によるネタ、瓦礫を消化できるよう進化した人間のための寿司、人間の脳をコントロールするという陰謀論にまみれた寿司などが回っている。作者によるとこれらの寿司にはある程度、科学的な根拠があるのだという。絵空事として笑って済ませるわけにはいかないのだ。
やんツーの作品では自律搬送ロボットが仏像や、流木やバケツを組み合わせたオブジェを棚から運んできて展示台に載せる、という動作を繰り返す。ネット通販などで物流倉庫からの出荷が自動化されているのに対し、美術業界がまだまだアナログなのを皮肉るものだ。
ここで展示されている作品には高価なものもあればメルカリで入手した、さして重要でないものもあるのだが、ロボットはそういった価値の違いは判断せず、どれも対等に扱う。しかし、そのうちAIが展示物の価値を決定するようになったら? 市原作品に通じるディストピアが現れるかもしれない。