甲斐みのりが案内する”おいしい名建築”を訪ねて、京都旅へ。
一般的に、”京都”と言われて思い浮かべるのは、京都市内だけでも2000近くあると言われる神社仏閣や、独特の間取りと構造を持つ木造建築「京町家」が並ぶ景色かもしれない。しかし、実際に街を歩いていると、豪奢な石造りの洋館や近年話題になった最先端の建築などが、それらの和風建築と共存していることに気づく。
4月に発売された『歩いて、食べる 京都のおいしい名建築さんぽ』は、文筆家・甲斐みのりさんの視点から京都の名建築をとらえ直した一冊だ。建築にまつわる歴史的背景や物語、心惹かれた意匠などを、フォトグラファー・鍵岡龍門のあたたかな写真とともに紹介している。
甲斐さんは、大学を卒業してからしばらくの間京都に暮らしていたことがある。ある日、いつも通りがかりに気になっていた「昭和の純文学の舞台として登場するような庭付きのステキな邸宅」が特別公開されており、運良く中に入れることに。それが、ヴォーリズが設計した遺伝学者・駒井卓博士の元邸宅〈駒井家住宅〉だった。このときの体験をきっかけに”名建築”に食事やお茶などを”味わうこと”を結びつけて、甲斐さんらしい建築めぐりを楽しむようになったという。
この本に登場するのは、辰野金吾、村野藤吾、ウィリアム・メレル・ヴォーリズなど日本近代建築を代表する建築家が手がけたものから、2020年に隈研吾が建築デザイン監修した〈新風館〉の新館まで、新旧さまざまな建築。そのすべてに、レストランやカフェなど甲斐さんが選んだ「おいしい」を感じられる場所がセットで紹介されている。
最初に紹介されているのは、〈国立京都国際会館〉。意外なようにも感じるが、掲載されている27の建築の中で、もっとも心に残った場所だという。
「京都タワーにのぼったことがないという京都の方も多いように、京都に住んでいたときには、わざわざ訪れようと思ったことがありませんでした。ダイナミックな〈国立京都国際会館〉は、建築ツアーも開催されており、建築ファンは半日たっぷり楽しめるところ。そこにあるもの全てに心がときめきます。隣接する村野藤吾最晩年の作品〈ザ・プリンス京都宝ヶ池〉も京都の繁華街から離れているためゆったり過ごすことができます。ホテルに宿泊しながら国際会館の建築ツアーに参加するのもおすすめです」