「腰巻事件」とその後 静嘉堂@丸の内で「明治美術狂想曲」展
「黒田の傑作にして問題作」と担当学芸員の浦木賢治さん。毛皮の上に足を崩して座るふくよかな白人女性を、明るい光の下で描いている。血管が透けて見えそうな白肌が印象的だが、今の眼(め)で見ると決してセンセーショナルな作品ではない。
明治33年、2度目の渡欧をした黒田は同年のパリ万博に裸体画の3部作「智・感・情」などを出品するも、師のラファエル・コランに批判されたという。奮起し、翌34年に現地で描いたのが本作。師の評価も上々で帰国後、第6回白馬会に出展したが、警察の指導で下半身を布で覆う、つまり「腰巻」での展示となった。
図録には当時の報道が紹介されている。それによると警察は当初、美術関係者の限定公開を打診したが、黒田があくまで一般公開を希望したため、こうした措置となったらしい。
そもそも黒田は第4回内国勧業博覧会(28年)に鏡の前に立つ裸の女性を描いた「朝妝(ちょうしょう)」を出し、論争を巻き起こしている。明治に入り、西洋の価値観に追従する形で日本でも肌の露出は禁じられていくが、一方で西洋には裸体表現の伝統がある。黒田は〝炎上〟やむなしで「裸体婦人像」を世に問いたかったのだろう。もっとも、画家は「腰巻」に納得したわけではなく、最も困難で最も巧拙の分かる腰部の関節に力を入れたつもりなのに、その肝心なところに幕を張られた、などと悔しさをにじませていたそうだ。
その後本作がどうなったのかというと、三菱を創業した岩崎家の所有に。高輪邸(東京都港区)洋館のビリヤード室に飾られ、大人の社交場を彩ったようだ。
「明治美術狂想曲」は6月4日まで。月曜休。一般1500円。大学・高校生1000円。日時指定予約を優先する。
■世田谷区岡本で8日間限定の展覧会も
静嘉堂文庫美術館は昨年、展示ギャラリーを東京・丸の内の明治生命館1階に移転させたが、もともとの拠点である東京都世田谷区岡本でも、機会をみて展覧会を開くという。
今年80歳を迎える同館の河野元昭館長が選ぶ、近世絵画の名品を集めた「河野館長卒寿の祝 饒舌(じょうせつ)館長ベスト展」を5月20日から28日までの8日間限定(22日は休館)で、岡本の静嘉堂文庫美術館で開催する。狩野探幽「波濤水禽図屏風(はとうすいきんずびょうぶ)」や円山応挙「江口君図(えぐちのきみず)」(いずれも重要美術品)など18点を展示。入館料1000円(高校生以下無料)。