『金閣寺』『空飛ぶ円盤同乗記』…横尾忠則さんの「人生を変えた本」
ダ・ビンチ、ピカソ、デュシャン、葛飾北斎、三島由紀夫など、古今東西の芸術家たちと時空を超えて芸術論に花を咲かせる──。異色の新刊『原郷の森』を上梓した横尾忠則さん(85歳)は、これまでどんな本を読んできたのか。衰えることのない創作を続ける芸術家の「愛読書」に迫った。
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子どもの頃は絵と遊びに夢中で、読書にはまったく興味がありませんでした。しかし中学2年生の頃、月刊雑誌『少年』に掲載されていた江戸川乱歩の少年探偵団シリーズの「青銅の魔人」には、一気に引き込まれました。
まず魅了されたのは、絵物語作家の山川惣治さんによる挿絵です。夜の銀座に出没する、金属の外皮を持つ大男。その悪事を暴く探偵の明智小五郎と、助手の小林少年、そして怪人二十面相との対決が絵と小説で生き生きと描かれていました。続いて「妖怪博士」と「虎の牙」も読破します。
もう一つ、同時期にのめり込んだのが、南洋一郎の「バルーバの冒険」。アフリカでライオンやチンパンジーに育てられた青年・バルーバが繰り広げる冒険を描いた、少年向けの小説です。こちらも鈴木御水さんによる挿絵が素晴らしかった。
僕の頭の中ではなぜか、都市を舞台に暗躍する怪人二十面相の隠れ家と、バルーバが走り回り冒険するジャングルが地下洞窟で一直線に繋がっていました。絵物語を元に怪奇やロマンに満ちた世界を空想することは、画家として生きる礎になったと言っていいでしょう。
しかし文字の本が好きになった訳ではなく、大人になってからも、せっかく買ったのに読んでいない本もたくさんありました。そんな中、印象に残っているのが三島由紀夫の『金閣寺』です。20歳の新婚まもない頃、妻が借りてきて、テーブルの上に置いていたのが出逢いでした。読み始めると難しい漢字も多く文学的な表現の連続でわかりにくい。金閣寺の美に魂を奪われた青年の物語は、1週間ほどかけてなんとか読了しました。
以来、なんとなく三島由紀夫のことが気にかかり、新刊が出るたび購入していました。そして'60年に上京した折には本人に会いに行き、一緒に仕事をするようになったのです。『金閣寺』によって、人生の新しい道が開かれたのです。とはいえその後の作品は熱心に読んでいません。僕は行動する作家としての三島さんの人間性に興味があったのだと思います。
東京ではデザインの仕事をしながら、現代美術にも心惹かれていました。そんな時、ブルトンの「シュルレアリスム宣言」を読み、「僕がやりたいのはこれだ!」と開眼しました。シュルレアリスムの柱は次の3つの考え方です。まずは純粋な心の動きを自動記述する「オートマティスム」。だまし絵のように形を変化させる「メタモルフォーゼ」。そして本来とは異なった環境に対象を置くことで新鮮味を生む「デペイズマン」。これまでの僕の絵にも、この3本の柱が活かされています。